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【オリジナル】異国小路の吸血姫 新館ノ壱

980 名前:吸血姫アーチェロ ◆ufrlRV4E 投稿日:2016/11/23(Wed) 13:03
>>973(柚葉さん)

>以前申し上げたように、少々皮肉屋めいた私自身の言葉を自省してしまう気持ちもありますが…。(汗)
>ですが、私が個人的な感情としてあそこまで憤ったのも、あの方が「覚悟」という言葉をあまりにも軽々しく使っていたからだと思います。
>「覚悟」というのは、私の好きな言葉の一つですから…。

申し訳ございません
わたくしは、柚葉さんのお心根への憧れから申したのですが
柚葉さんにとりましては不快なことを思い出させてしまいました…

ですが、『覚悟』、その言葉が柚葉さんにとりまして、とても大切で揺るがせにしてはならないものであること、この胸に響きましたわ

そういったことへの理解の足りなさ、といったものがありますのは、わたくしが能天気昼行燈であることは隠し様もございませんが…
同時に、わたくしが人様に比べて長命で強い『力』を持っているからでもございましょう

人間の狩人、退魔師、陰陽師…
魔族と対峙することに並々ならぬ『覚悟』を胸に宿し、長い修練を経てようやく力を手にされた方々から、わたくしは何度も攻撃を受けてまいりました

『力』に於いては多くの場合、苦も無く戦え、それが嫌な攻撃をかわしてしまえるのです
ですが、その方たちの『覚悟』に対しては、心が揺らいでしまいましたわ

幼い頃、初めて人間のそうした方から襲撃された日…
わたくしはただ驚き怯えそして…、闇雲に力を使って応戦してしまいました
訳も分からず泣きながら必死になって、『力』を相手にぶつけ ―
気が付くと、相手は…血溜まりに身を横たえていました

直後に駆けつけたメイド長が、魔力で応急措置を講じてくれたおかげで相手の命までは失われずに済みました
それからわたくしを連れ帰ったメイド長が、わたくしのお部屋でわたくしの前に立ち
わたくしは、もうそれは激しく叱責されるものと、ただ震えておりましたが
『わたしは何をした?血にまみれて、人間の命が消えゆこうとするとき何もできなかった…。』
相手を殺める寸前まで傷つけたこと、どうして言い訳など出来ましょう


ですが ―
メイド長はわたくしに平伏いたしました
『申し訳ございません。姫様の危急の時にお守りできず。
 そして、わたくしが躊躇ったばかりに、姫様を苦しめて。
 姫様に、『覚悟』を、人と向き合うことの『覚悟』をお教え申し上げていなかったばかりに…。』
そう申して…

そうして、わたくしに懇々と説いてくれましたわ
人としての普通の幸せを放擲してでもわれわれを斃そうと挑んでくる者たちの持つ『覚悟』のことを
圧倒的な力を持つわたくしたちが、彼らを貪るためではなく、自らを護るために時には彼らを殺める、そのための『覚悟』のことを

幼かったわたくしには、はっきりと理解し得たわけではありませんでしたし、その後も人界に遊びにまいるのを止めもしませんでしたが

ただ、その後はわたくしを襲ってまいる人たちの『覚悟』はその都度わたくしの心に浮かんでまいりました
敵であるとは申せ、強いそして時には曇りのない彼ら彼女らの心の在り様が

ですから、シスター様が『覚悟』という言葉をお使いになった時、やはり心が少し揺らいでしまったのですよ
もちろん、それで後れを取り、さらにまた柚葉さんに心を痛めさせてしまうつもりはないとは申せ
シスター様もまた、純粋な想いがあるからこそ、わたくしに敵対なさるのだ、と思いましたわ

ですが、柚葉さんの今のお話を伺って、『覚悟』という言葉を、もっと自分の中で噛みしめ、理解しようとしなければいけない、と思わせていただきました

柚葉さんのお言葉の一つ一つ…『覚悟』というものについて突き詰めて考えなければ、わたくしは自分の在り方も、シスター様の在り方も、結局分からないままになってしまう…
それは嫌でございますから

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