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神やけど

93 名前:付喪神 投稿日:2006/06/19(Mon) 02:06
こんな蒸し暑い夜は、覚えず思考に耽ってしまう。
空想や……哲学、……気付けば自然と、昔の事を思い出して……

……思い浮かんだ内で、ふと、心を惹かれたものがある。

>>88
――嗚呼。
丁度懐かしんでいた所だ。私とて恋愛の経験はある。
どのような?……人に話すのも恥ずかしいのだが……。

何時の事だったか、よくは覚えていないが……まだ私がペンであった頃の話だ。

確か、筆記具として鉛筆が浸透し始める前の事だった。
主人は中々新しい物が好きな人でな……其の頃は未だ余り知られていなかった鉛筆に興を示し、買ってきたのだ。
其れまで、何か書く際には専ら私が使われていたのでな、若さ故か、些かの嫉妬を覚えたものだよ。
鉛筆が原稿上を走るのを、横で……物珍しさもあったとは思うが、私は一心に見詰めていた。

……其の姿を見た際の心持ちは、言い表し難いものがあった。

――何処か儚さを含む、美しい横顔。
――軽やかに踊る華奢な体躯。
――其れはまるで、森林に飛び交う妖精か何かの様に見えた。

あろう事か、私は其れまで、彼女が女性である事を知らなかったのだよ。
……唯、私は彼女の踊るのに見蕩れていた……生まれて初めての感情だった。

其れから、彼女が使われる番になると、決まって私は其れを見たものだ。

ある時、出来る限りの勇を奮って私は彼女に胸の内を明かした。
一目惚れをした事や、彼女を熱心に想っている事……私が告白をしたのは、後にも先にも此れ切りだ。
彼女は恥ずかしそうに、自分もだ、と云ってくれた。
私は非常に嬉しかったが……然し彼女は、一緒には居られないと付け足した。

其の時には理由も察せられなかったが……真に、彼女は儚かったのだな。
初めて会った時からどれ程経っただろうか、告白をした数日後の事だ。
……彼女は、鉛筆としての仕事を……全て果たしたのだ。使い切られたのだよ。

彼女は最後に笑っていたよ、幸せそうな顔だった。
一体、彼女は今如何しているのか……若しかすると、同じ様な体になっているのか……
……私には、知り得る事も出来ないがな。

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