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【オリジナル】国立光明学院 14時限目【異能】
488 名前:
(1) ◆
V.9gKSA.
投稿日:2022/10/08(Sat) 20:40
あのカルト教団による動乱―――――通称『大戦』から早くも10年。
家族を喪い、国を始めとする多くの助けを受け、ただの小僧でしかなかった私は今。
異能社会の監視者、人の営みとその平穏を守る存在。
政府お抱えの能力者が集う秘匿部隊、『異能員』の一員となっていた。
……と言ってもまだまだ入りたての、先輩方の付き添いでしか現場に出た事のない新米だ。
配属された班内でも一番の若輩、言葉を選ばず表せば下っ端。
今回はそんな私の、初めての単独任務となる。
大戦にて世界を敵に回し戦ったテロリストの幹部、その監視。
………常識的に考えて、新人の仕事ではないだろう。指令を受けた際に耳を疑ったのが記憶に新しい。
だが私も異能員の末席に名を連ねる身、「できません」は許されないのだ。
既に命令は下されている。今更逃げ出せば、仮初と言えど自由を得た彼女が何をしでかすか。
やるしかない。不安は拭えずとも腹を括り、気を引き締めて、監視者としての職務に臨んだ。
―――――監視対象の第一印象は、『今時の若者』だった。
最新型のスマートフォンを片手に、気だるげに佇む妙齢の女性。
齢は……目測になるが、凡そ20歳代半ば。班長と同じ年頃だろうか。
今そうだとするなら、大戦時には高校生くらいになる計算。俄かには信じがたいが、事実だ。
「今度の首輪はてめえか」
液晶画面から視線を上げた、鬼女の琥珀色が私を射抜く。
そう認識した次の瞬間には、視線は再びスマートフォンへ戻されていた。
どうやら私個人に対する興味と言うものは、欠片たりとも持ち合わせていないらしい。
好都合だ。一見して人畜無害に見えても、この女はかの大戦で暴れ回った鬼。人の皮を被った悪鬼なのだ。
こんな危険人物と、誰が好き好んで関わりたいものか。
事務的結構、粛々と務めを果たすのみ。そう心に決めて、背まで向けた女を追い歩を進めた。
暫し歩く間で、幾つか分かった事がある。
対象は画面を見ながらも足取りは確かで、地図を確認している様子はない。
つまり目的地は既に頭に、或いは足に入っているのだろう。
そして私に対し、注意を払っている様子もない。完全に眼中にないようだ。
嘗められているのは癪に障るが……堪えろ。此処は市街地、戦闘行為など以ての外。
少なくとも私の隙を突いて逃げ出したり、突然暴れ出したりする予兆は全くない。
大人しくしているなら、それでいい。………そう、自分に言い聞かせた。
そうこうしている内に、奴が足を止めた。つられて私もその場に留まる。
「ここだ」
見遣れば其処は、何処にでもあるような喫茶店だった。
ごく普通の、何の変哲もない一店舗。こんな場所に何の用事が?
一抹の疑問、そのために足が止まり。勝手知ったるとばかりに入店する、その背中を慌てて追った。
そしていざ入店してみれば、やはり何の変哲もないただの喫茶店。
ますます疑問は深まるも、彼女も状況も私を待ってなどくれない。
「おい」
私を放置して、店員と一言二言交えていた彼女の声。
一体私に何の要件か、思うよりも早く答えが振られてきた。
「預かってるカードあんだろ。あれ見せろ」
カード。預かりもののそれに、私は心当たりがあった。
蝙蝠に寄り添う銀色の狼、その意匠が刻まれた金属板。
政府の技術開発部から異能員に提供されたと言う、非接触型ICカードのようなもの。
どうして今、そんなものが必要になるのか。また疑問はあったが、大人しく言う通りにした。
刻印が見えるようにメタルカードを提示すると、首肯した店員が次はハンディスキャナーを取り出し。
対象は手にしていたスマートフォンを持ち替え、カバーをスキャナーに近付ける。
1秒か、或いは2秒か。その程度の間の後に、次は私の番だと告げられた。
向き直れば既に端末を持ち替え直し、液晶画面に視線を落としているこの女。
倣ってカードをスキャナーへ近付け、数秒。「もう結構ですよ」との店員の言葉に、私より先に対象が動いた。
その場を離れて店内を歩きだした彼女の、その背を急いで追い掛ける。
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