【オリジナル】異国小路の吸血姫　新館ノ六

386 名前：水橋パルスィ@メイド服 ◆Parseejo 投稿日：2024/03/03(Sun) 13:46

>>376
「買ってやろうか」ですって？
真祖直系カルミーニオ侯爵家の姫に人間風情が施しをしようとは呆れ果てた。
吸血種の本質は搾取であり人間は搾取される側、斯様なことも今に至るまで分からぬとは憐憫さえ覚えるわね。
死に頭を垂れよ人間、蛮勇への論功と無知への処方は黄泉国―――消息盈虚幾星霜経ようとも変わらぬ世の理である。

―――なんと仰せられます姫様、この慮外者へ罰を与えるには及ばぬと。
成程、蝙蝠三姉妹への報労を優先させようという御心でございますか、なれば否やもございません。
運がよろしゅうございましたわねお客様、今日は殊の外我が主のご機嫌が麗しいようでございますわ。
寛大にも無罪放免を沙汰として仰せつけられました、生涯感謝の念を深くし続けて下さいませ。

近世の貴人達は料理に自らの名を付けようと進んで厨房へ入ったとか。
試行錯誤は産褥をもたらしましたが、今なお衆生の目と舌を楽しませるものもございます。
姫様がその例に倣われ、御自ら腕を振るわれる様は眷属一同恐悦の極み。
丹精込められた菱餅を飾るに相応しい生地を羽藤侍従と私めで作り上げましょう。

>>377
私が男役を仰せつかろうとは、我が夫＜つま＞や弁才天＜アナーヒト＞の方が適当でしょうに。
されど夜陰を貫く銀一閃たる姫様、嫋やかな羽藤侍従、姦しい蝙蝠三姉妹と比較すればやむを得ないか。
レイナ侍従長とともに闕腋袍＜けってきのほう＞に身を包み、姫様と官女様方への鳳輦供奉を務めましょう。
弓矢と太刀を以て今日一日姫様―――いえ、お雛様をお護り申し上げましょう。

異朝に在りました折は我が弓でギリシア＜ユナーニ＞のファランクスが盾と鎧を貫き、アラブの狂信者をアッラーの許へ送りました。
本朝では天狗の翼を射抜き、土蜘蛛の眼を潰し、矢が尽きれば我が佩刀鬼切にて河童の手を斬り、鬼の頸を落としたこの腕
素質や技量はともかく場数だけは侍従長より踏んだつもりでございます、人間は元より神霊妖魔まで相対さなかったものはございません。
姫様方を毒牙にかけようというものは一匹たりとも通しません、この私めを除いては。

内裏雛がいない？何を仰られますやら、斯様な催しを侯爵夫人が見逃すはずがございません。
されば母娘二人して五衣唐衣裳をお召しいただきます、よろしければお客様も仕丁の衣装を用立てますのでエキストラでご参加頂けないでしょうか。
『御伽草子』にもございますとおり仕丁は無償の雑役、飲食は供しますので何卒お引き受け賜りたく存じます。
五人囃子は流石に姫様の伝手に頼るほかないか―――パノッティもこちらに来れば良かったものを。

>>379
私の弱点をご存知とは油断も隙もならぬお客様で、素性も恐らく見破っておられるのでしょう。
お屋敷へ忍び込む鼠は銀色に加えて青色、金色と増えるばかり、さてさてお客様はいずれの鼠を操っておられますのやら。
更に我が主の弱点まで会話に紛れて探ろうとは狡猾あるいは機略縦横と申すべきか。
「王」は周りの駒が居てこそ安泰、今日は「歩」の弱点が分かったところでご容赦を。

神霊妖魔は人間の無知蒙昧が生み出したものが殆どございます。
そうでないのは世界でただ一柱アフラ＝マズダーのみ、故に絶対の正義であり一切を創り賜われました。
話を戻しますと迷信に拠って力を得るのが神霊妖魔ならば、迷信に拠って誓約を受けることもまた然り。
種族や個体によってその程度はございますが、私については鬼として、橋姫としての在り方を強く持つ存在にて。

黄泉比良坂にてかの夫婦二柱が本朝初の離婚を行った折、黄泉国の荒神達を追い払ったのが三つの桃
故に生の桃はその後裔たる鬼共が苦手とするところになりました、鬼退治には犬、猿、雉に加えて桃も具されませ。
生は苦手ですが、このように加工すれば問題はありませんし馨しい風味に食指が動くのは種族を選ばぬかと。
姫様、賜りました桃でタルトが焼き上がりましたのでお三時に、紅茶は『MARIAGE FRERES』のプリンストン（ダージリン）をご用意致しました。

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