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卒業研究(太宰治の研究)

1 名前:堀木 ◆X.e8/ucY 投稿日:2013/07/21(Sun) 15:42
なんか連絡のためにこのスレを作ります。
荒らし禁止
個人情報流失禁止
問題が起きても責任をわたくしは一切持ちません
まさかここをほかの人が使っていたとは……

25 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:01
葉蔵は日陰者として生きていくことを望み美徳のように感じていたと思われる。お化けの絵を主人公は自画像と形容している。道化を続けることで他人とは異なる自分の存在を認識しそれと同時に「他人を欺いている」事実にくるしむ。つまり道化とは主人公の存在を証明するものである。自分はお化けである、だから道化を演じ続けなければ彼がこの世の中に存在することができず彼そのものが道化なのである。主人公は自分の中に存在するお化けに気付いたとき絵を描くことで自分の素顔を再認識したかったのである。
また竹一の「お前は女に惚れられるよ」という発言は後年になっても変わらないと書かれてある。つまり、主人公は時系列の流れに関係なく主人公なのであり、「はしがき」に合った変化も微細なものでありいささか違うように見えるが奇妙という根本は全く変わっていないのである。
堀木という人物は太宰に少なからずとも影響を及ぼした。彼は
この世の人間の営みから完全に遊離してしまって戸惑いしている点が同じであるが
道化を意識せずに行いしかもその道化の悲惨さに全く気付いていないという点が違うのである。
彼に対して主人公が抱いた軽蔑は同時に自分に対する軽蔑でもあったのだろう。このころの彼は堀木に対し仲間意識を持っていた。
また彼から教わった淫売婦なるものが人間でも女性でもない存在であり存在自体が道化である主人公の心のよりどころになった。
非合法、日陰者という形容を自分に用いていてそれは生まれつき自分に備わっていると解釈している。また女と情死事件を起こしたりしていて積極的に世間のアンチテーゼになろうとしているようである。『人間失格』には多くの女性が登場する。その女性の多くは主人公に好意を寄せていて手記中にも女性について書かれているところが多々ある。然し主人公にとって「惚れられる」というのは不名誉なことであった。なぜなら「惚れられる」ということは自分の道化を許されることであるからだ。他人を欺きながらも平気で生きていられる人間に疑問を持っていた主人公にとって他人を欺く道化を受け入れられるのは不本意であった。
堀木が女に対して積極的であるのに対し主人公は女に対して受動的である。ここに自分というものを理解しているかどうかの差異が生まれてきているように感じる。堀木にとって
女、しいては人間は一義的なものでしかなくそれゆえ人を欺きながら「清く朗らかに」生きて行けたのである。


26 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:02
貧乏くさくみじめなツネ子は限りなく主人公と同類であり金の切れ目が縁の切れ目という言葉に代表されるように入水自殺によって死んだ彼女は主人公にとっての世間とつながる切れ目となってしまったのである。世間とのつながりを失った彼は家族から感動されることになる。彼の『人間失格』までの道のりにより一層拍車をかけた。
ここで彼が自殺幇助罪で保護室で警官の監視下に置かれているとき、警官から猥談の目的で彼の女とのつながりを聞かれた。答えなくてもいい質問なのだが彼は「秋の夜長に興を添えるため」それを語った。その時点で女に対する未練は全くないものだとうかがえる。この後横浜まで護送されるのであるが罪人としている方が気楽であるという記述がある。世間と真反対でいることが彼にとっての生きがいであり道化を演じるゆえんでもある。
@竹一に道化を見破られた
A検事に血痰のことがばれた
二人が登場するのは主人公が油断しているときや自分の有益のために道化を演じるときである。二人に道化を見破られるたびに主人公は地獄を見る思いをして不安や恐怖を感じることになる。欺いていることに後ろめたさを感じ罪とは何かと苦悩する存在が主人公だとすれば二人は彼にその存在証明を思い出させる役割を果たしていたといえよう。


27 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:02
C第三の手記
主人公はヒラメというあだ名の父の同郷人でまた父の太鼓持ちの部屋の二階に住んだ。本来主人公よりもランクが下の人間に世話になっていてこれ自体がもう堕落しているといえる。気持ちのしっかりしていない男で将来の方針も何も主人公にはまるで見当がつかずでいるのにヒラメから援助されるのがいたたまらないと記述してある。ここにもまだ貴族生まれの傲慢があるのであろう。誰とも付き合いがない。何処へも訪ねてゆけない。という道化として存在しているからこそ、世間のアンチテーゼとして存在しているからこそこのような現象が起こるのだろう。ここの場面あたりから主人公は自分と堀木の違いが如実に表れてくる。彼の父親が絶対的な世間であれば堀木は個人個人で変化する可変的な世間と形容できる。
また堀木でさえ、かれと同じだと思っていた堀木でさえ彼を厄介者扱いしている記述が多々見られる。堀木は主人公のことを軽蔑していたのである。
主人公の脳裏に浮かびあがってきたのは中学時代の竹一の絵であると書いてある。このような狂った人生、その原因を作ったのはまさにあの時ではなかったのか。お化けの絵はその時の作者を象徴していた。それを傑作と形容するほどなのだから現在の作者はあの時の状態よりもひどいことが推測される。


28 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:03
新しく交際している女性の子供の言葉を引用する。
「お父ちゃん。お祈りをすると、神様が、何でも下さるって、ほんとう?」
 自分こそ、そのお祈りをしたいと思いました。
 ああ、われに冷き意志を与え給え。われに、「人間」の本質を知らしめ給え。人が人を押しのけても、罪ならずや。われに、怒りのマスクを与え給え。
「うん、そう。シゲちゃんには何でも下さるだろうけれども、お父ちゃんには、駄目かも知れない」
 自分は神にさえ、おびえていました。神の愛は信ぜられず、神の罰だけを信じているのでした。信仰。それは、ただ神の笞《むち》を受けるために、うなだれて審判の台に向う事のような気がしているのでした。地獄は信ぜられても、天国の存在は、どうしても信ぜられなかったのです。
「どうして、ダメなの?」
「親の言いつけに、そむいたから」
「そう? お父ちゃんはとてもいいひとだって、みんな言うけどな」
 それは、だましているからだ、このアパートの人たち皆に、自分が好意を示されているのは、自分も知っている、しかし、自分は、どれほど皆を恐怖しているか、恐怖すればするほど好かれ、そうして、こちらは好かれると好かれるほど恐怖し、皆から離れて行かねばならぬ、この不幸な病癖を、シゲ子に説明して聞かせるのは、至難の事でした。
「シゲちゃんは、いったい、神様に何をおねだりしたいの?」
 自分は、何気無さそうに話頭を転じました。
「シゲ子はね、シゲ子の本当のお父ちゃんがほしいの」
 ぎょっとして、くらくら目まいしました。敵。自分がシゲ子の敵なのか、シゲ子が自分の敵なのか、とにかく、ここにも自分をおびやかすおそろしい大人がいたのだ、他人、不可解な他人、秘密だらけの他人、シゲ子の顔が、にわかにそのように見えて来ました。
 シゲ子だけは、と思っていたのに、やはり、この者も、あの「不意に虻《あぶ》を叩き殺す牛のしっぽ」を持っていたのでした。自分は、それ以来、シゲ子にさえおどおどしなければならなくなりました。」
道化が通じる、そして彼のことを父親だとあがめていたと思っていたシゲ子にも太宰は裏切られたのだ。
この後、堀木は「これ以上は(女道楽を)世間が許さないからな」という。堀木にとっての世間は彼が一義的であるゆえに、彼が無意識のうちに道化を行っているがゆえにそれは太宰の思う世間ではなく、堀木自身なのである。ゆえに堀木に
「汝は、汝個人の恐ろしさ、怪奇、悪辣、古狸性、妖婆性を知れ!」
と心の中で思っているのである。しかし堀木自身はそれに気づいていない。だから軽蔑しているのである。主人公は堀木を通して世間というものの実態をつかもうとしているのであろう。


29 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:04
一応こんな感じ

30 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:04
なんかあったらご連絡を

31 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:04
合宿終わった?

32 名前:堀木 投稿日:2013/07/22(Mon) 21:05
え?

33 名前:堀木 投稿日:2013/07/23(Tue) 00:00
やっと終わった!

34 名前:堀木 投稿日:2013/07/23(Tue) 17:18
後ろに行ってしまった
一応卒業研究の割り振りの確認

0,作品背景と研究の方法
 @)作品背景
 A)あらすじと作品の評価
 B)問題設定と研究の方法

1,『人間失格』から読み取る
 @)はしがき
 A)第一の手記
 B)第二の手記
 C)第三の手記
 D)あとがき
 E)参考資料:太宰の一生(表)

2,登場人物
 @)葉蔵…@性格 A生涯
 A)ひらめ…
(以下同様)あげられるだけ人物

3,考察
 @)文学史的見地
 A)太宰治

4,研究の反省、今後の展望



35 名前:パラワン ◆.BENJO.. 投稿日:2013/07/24(Wed) 00:31
     ∧_∧      ∧_∧
     _( ´∀`)    (´∀` )
  三(⌒),    ノ⊃    ( >>1 )   糞スレは・・
     ̄/ /)  )      | |  |
    . 〈_)\_)      (__(___)

         ∧_∧  .∧_∧
         (  ´∀) (´∀` )
       ≡≡三 三ニ⌒) >>1 .)    立てんなって
        /  /)  )  ̄.| |  |
        〈__)__)  (__(___)

           ∧_∧  ,__ ∧_∧
          (    ´)ノ ):;:;)∀`)
          /    ̄,ノ'' >>1  )   言ったろうが
         C   /~ / /   /
         /   / 〉 (__(__./
         \__)\)
                      ヽ l //
            ∧_∧(⌒) ―― ★ ―――
            (    ) /|l  // | ヽ   ヴォケがーー!
           (/     ノl|ll / / |  ヽ
            (O  ノ 彡''   /  .|
            /  ./ 〉
            \__)_)


36 名前:堀木 投稿日:2013/07/24(Wed) 00:31
100まではまだ遠いね

37 名前:堀木 投稿日:2013/07/24(Wed) 22:31
一応バドミントン部が来たら卒業研究の僕の分担分の全文を載せます。
一応テニス部には送りました。メールを確認してください。
いちいちメールするのも面倒なのでここでほかの部分の話し合いを行いと思います。




38 名前:堀木 投稿日:2013/07/24(Wed) 22:54
集まる期日などはまた後日話し合いましょう
一応僕は平日OK(お盆など特別な日を除く)

39 名前:パラワン ◆.BENJO.. 投稿日:2013/07/25(Thu) 18:20
     ∧_∧      ∧_∧
     _( ´∀`)    (´∀` )
  三(⌒),    ノ⊃    ( >>1 )   糞スレは・・
     ̄/ /)  )      | |  |
    . 〈_)\_)      (__(___)

         ∧_∧  .∧_∧
         (  ´∀) (´∀` )
       ≡≡三 三ニ⌒) >>1 .)    立てんなって
        /  /)  )  ̄.| |  |
        〈__)__)  (__(___)

           ∧_∧  ,__ ∧_∧
          (    ´)ノ ):;:;)∀`)
          /    ̄,ノ'' >>1  )   言ったろうが
         C   /~ / /   /
         /   / 〉 (__(__./
         \__)\)
                      ヽ l //
            ∧_∧(⌒) ―― ★ ―――
            (    ) /|l  // | ヽ   ヴォケがーー!
           (/     ノl|ll / / |  ヽ
            (O  ノ 彡''   /  .|
            /  ./ 〉
            \__)_)


40 名前:堀木 投稿日:2013/07/25(Thu) 21:14
>>39
荒らすな

41 名前:パラワン ◆.BENJO.. 投稿日:2013/07/25(Thu) 21:20

    /\___/ヽ  ?       
   / --=  、_:::::\nn     
  .| (●),ン <(●) 、.:|..| |^n   
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .:::::|.|..| |.|   
  .|   _,ィェエヲ`  .::::::|! : :|   
   \  `ー'´  .::::_人  :イ  
   /`ー‐--‐‐―´\|  │


42 名前:夏目漱石 ◆aRBXKNII 投稿日:2013/07/25(Thu) 21:23
   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ、
  /   ⌒   ⌒  ヽ   ./
  |      l _ l    |  .|
  |   ::::::::)(_)(::::::: | < 荒らしたらだめだよ
  |     ___   |  .|
  \    \_/   ノ   \
    \____/


43 名前:堀木 投稿日:2013/07/25(Thu) 21:24
>>41
??????????????????????????

44 名前:夏目漱石 ◆aRBXKNII 投稿日:2013/07/25(Thu) 21:26
>>41
パラワン作業終わったの?
そもそも普請中はみつかった?

45 名前:堀木 投稿日:2013/07/25(Thu) 21:32
ってかうちの班員はまだ来ないの??

46 名前:夏目漱石 ◆aRBXKNII 投稿日:2013/07/25(Thu) 21:33
>>45
デブも来ないから大丈夫。

47 名前:パラワン ◆.BENJO.. 投稿日:2013/07/25(Thu) 23:41

       ,、、、----‐‐‐‐‐--、,
     /           :ヽ
    /              :\
   ./            ,,,,;;::''''' ヽ
  /    ,,,,;;:::::::::::::::       __   ヽ
  |   .  __       '<'●,   |
  |.   '"-ゞ,●> .::            |
  |           ::: :⌒ 、      |
  ヽ.      ;ゝ( ,-、 ,:‐、)      |  ごめんもっかい言って
   l..            |  |      |
   |        __,-'ニ|  |ヽ_     |
    ヽ:        ヾニ|  |ン"    /__
    .ヽ:        |  l, へ      ::::ヽ,
     l.:`.         / /  , \  /ヽ  ::\
     `、:::::       |    ̄ ̄\/ ノ    :::ヽ
      |::::::      |      ー‐/ /      ::::\




48 名前:堀木 投稿日:2013/07/30(Tue) 13:04
一応卒業研究の割り振りの確認

0,作品背景と研究の方法
 @)作品背景
 A)あらすじと作品の評価
 B)問題設定と研究の方法

1,『人間失格』から読み取る
 @)はしがき
 A)第一の手記
 B)第二の手記
 C)第三の手記
 D)あとがき
 E)参考資料:太宰の一生(表)

2,登場人物
 @)葉蔵…@性格 A生涯
 A)ひらめ…
(以下同様)あげられるだけ人物

3,考察
 @)文学史的見地
 A)太宰治

4,研究の反省、今後の展望

49 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/07/30(Tue) 13:06
バドミントン部、事前資料の要約(文章)と分からない単語もお願いします。

50 名前:UNKO ◆.UNKO/.. 投稿日:2013/08/01(Thu) 23:34
太宰治君、君の貼るAAっていつも思うけどセンスないね^^

51 名前:UNKO ◆.UNKO/.. 投稿日:2013/08/05(Mon) 11:10
>>50
糞AA貼るなって示唆してたんだが分からんか。

52 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:06
ところで、
0,作品背景と研究の方法
 @)作品背景
 A)あらすじと作品の評価
 B)問題設定と研究の方法

1,『人間失格』から読み取る
 @)はしがき
 A)第一の手記
 B)第二の手記
 C)第三の手記
 D)あとがき
 E)参考資料:太宰の一生(表)

2,登場人物
 @)葉蔵…@性格 A生涯
 A)ひらめ…
(以下同様)あげられるだけ人物

3,考察
 @)文学史的見地
 A)太宰治

4,研究の反省、今後の展望

のうち、0はバドミントン部が、1は私が、2はテニス部が、3はバドミントン部が、4は…誰?
ということになっております。
さて、文章の要約と、単語のまとめはみんなでするということにしてよろしいでしょうか。


53 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:07
@はしがき
L1「私は、その男の写真を三葉、見たことがある。」
『人間失格』はこの言葉から始まる。この作品中で印象的なのは文章がこの「はしがき」と「あとがき」がなくてもよさそうなのに組み込まれていることである。筆者は文章を、俯瞰的視点で書いている。また三葉というからにはこの文章を三つの段落に分けられると考えられる。また
L3「それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹《いとこ》たちかと想像される」
とわざわざ想像という言葉で書いていることが読者にますます俯瞰的境地に立って書かれていることをうかがわせる。
また写真に乗った子供のことをいやそうに記述していることより主人公を半ば自虐的(太宰とこの主人公の設定、境遇はほとんど同じであり、自叙伝と考えるのが妥当である)にえがいていることがうかがえる。また後段の記述は完全に主人公の初見の印象だけでも醜く人間らしからないということを形容している。子供のころからほかの人間とは違うということを言わんとしているのだと思う。
またこぶしを握りながら笑っているということで自分の偽装をおこない大方良かれと思ってやったのだろうがかえって人の心証を下げている面がある。

「ひどく変貌していた」という記述と「とにかく、恐ろしく美貌の学生である」という記述から前述の少年が如何に気持ちの悪い顔であったかが描写される。然し「巧みな微笑にはなってはいるが然し人間の笑と何処やら違う」「生きている人間の感じはしなかった」「血の重さとでもいおうか、そのような充実感は少しもなくそれこそ鳥のようではなく羽毛のような軽くただ白紙一枚そうして笑っている。つまり位置から十まで作り物の感じなのである……」というように前述の少年とは明らかに大きな差がある。少年は物理的に彼の不自然性が描かれていたが青年は感覚的に描かれている。また美貌という表現と怪談じみた気味悪いものという形容は相反するように思われる。だからこそ見たことが一度もないのであろう。
さて、次の写真はもっと機械で年のころがわからず笑っていず表情もなく自然に死んでいるようなまことに忌まわしい不吉なにおいのする写真と形容されている。しかし「私は、つくづくその顔の構造を調べることができた」と書いていてこれもやはりすぐに捨てたくなるような少年の写真とは明らかな差異がみられる。この写真に写っている男は何も特徴がなく次のページに「死相にも表情がありそうなものなのに」と、かいていてこの本の題名でもある『人間失格』と結びつく。またひどく汚い部屋という表現も彼の人生そのものを物語っているのであろう。「すでに
私はこの顔を忘れている」というのは少年、青年の表記と随分違ったものだ。小さい火鉢は思い出せるのに彼のことは思い出せない。火鉢よりも価値がない、つまり人間失格。人間の体に駄馬の首でもくっつけたらこんな顔になるのでないかという表現から人間でもないし駄馬でもない。どうしようもなく価値がないものであることを如実に語っている。
「見る者をして、ぞっとさせ、いやな気持にさせるのだ。私はこれまで、こんな不思議な男の顔を見た事が、やはり、いちども無かった。」という記述はどれも同じである。
ここまででわかることは少年、青年のころは『人間失格』になるまいと頑張った結果があれなのであり末期はもうそれすらもあきらめているようである。最初から自分は人間ではない、ここに太宰の持った劣等感がうかがえる。



54 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:07
A第一の手記
「自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした……」
という記述から彼が幼いころからコンプレックスを持っていたことがうかがえる。恥の多い生涯というのを子供時代東北で送っていたことが所以であるとさも言いたげな文体である。また鉄道のブリッジを最も気の利いたサーヴィスとおもい実用品だったことにがっかりしたという記述がありさらに実用品について人間のつましさという記述がある。暮らしぶりが質素であることをさも愚弄するような記述であるしハイカラなものを好む傾向がある。    
@父親が議員……優越
A東北生まれ……劣等
B7男である……劣等
C成績が優秀……優越(後述)向があるように思われる。ここで太宰の父親が議員だったことに注目したい。

というように彼は優越感と劣等感の板挟みになっていることがうかがえる。@については『斜陽』でも語られている。ことさら彼に関してはのちの生涯により劣等感の方が勝った。だから恥の多い生涯を送ってきましたと冒頭にあるようなことになるのであろう。
周囲の人々がそれおなかがすいたろうと言って無理矢理ものを食べさせる。だから空腹感というものはちっともわかってはいない。食べなければいいものをわざわざ食べるのはほかの人を怒らせたくないという人への恐怖感が根付いている。そんな体験を多々しているうち人間失格になったのではないか。そのような仕打ちを受ける食事の時間は最も苦痛な時刻だと書いている。食事の時間は珍しいもの豪華なものはないのでいよいよ恐怖するという記述。これまたハイカラなものを好む彼の性質が如実に出ている。もちろん一番下の座という記述も彼の劣等感があらわされている。優越感と劣等感を交互に出すことで対比的な効果を生み出している文体である。
「家中にうごめいている霊たちに祈るためのものかも知れない、とさえ考えた事があるくらいでした。」
普通の人はこんなことは考えない。霊とはいったい何のことを指しているのか。食べたくもない飯を食うのは、みんな厳粛な顔をして食うのはもしかしたらお供えのためにあるのではないかという考えの末なのか。太宰の死に関する恐怖もうかがえる。
自分には脅かしにしか聞こえな
いが不安と恐怖を与える「死」。
それが彼にとっては一番の敵で
あったらしい。またそれを難解で晦渋と形容していてハイカラでないものにがっかりする彼とはまた違った一面が読み取れる。
「つまり自分には、人間の営みというものが未《いま》だに何もわかっていない、という事になりそうです。」


55 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:08
ここで注目したいのは現在形で表記されていることである。つまり彼は未だに人間について理解していないということになる。彼の幸福の観念と世間の幸福の観念が食い違っていることは前の文章から読み取れ、言うまでもない。また自分を幸せ者だと思っていなくひたすら劣等感にさいなまれているようである。
禍の塊が10個あるというのはもちろん比喩である外貨に太宰がそれに苦しんでいるかが読み取れる。
ここより隣人の苦しみの性質程度が理解できないと彼は書いている、つまり彼はそもそもがほかの人間とは異質であるということになる。ここで気になるのが非常に劣等感あふれる文章構成になっているが自己弁護と解釈できるところが多々ある。最初な「……阿鼻地獄なのかもしれない」と書いてあるが「エゴイスト…」と書いてある。村上春樹は彼の文章を
ため息の出るものと形容している。他にも彼の作品の関しては批判的な人が多い。それもこういう文章によるものだろう。飯を食うため、金のために生きているという表現からまさに彼は人間とは言い難いことを言ってのけている。積極的に世間のアンチテーゼになろうとしている。
「そこで考え出したのが道化でした」
以後彼はこれにより自分の本質を隠そうとしている。人間に対する最後の求愛と表現されている。七男坊として生まれた彼は幼いころから愛情をまともに受けなかったらしい。だから最後の求愛などという形容をしているのだろう。
「おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、内心は必死の、それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、油汗流してのサーヴィスでした。」
彼はそれにより少しでも人間というものに関して理解しようとしていたのだ。人間の仮面を着ることにより人間と少しでも交流を持とうとしていたのだと思う。奇妙な顔という自覚はあったらしい。なのにそれをやめられないのは幼いからでる故青年のころにはそれはすっかり克服できていた。
肉親に口答えするとの葉や人間と一緒に住めないというところから家父長的な考えがうかがえる。それにより反抗することもできなくなった。よって批判されることは彼にとって狂うほどの恐怖を与えた。かれはそこに動物の本性を見たと記述してある。普段は普通の、本性が読めない人間が急に野性的性質を見せる、まるで二重人格のようなことがわからない。かれはそれを、野性的性質を人間の本性と受け取った。だから道化のような馬鹿らしいことでもだましておけると考えたのではないか。所詮は動物なのだから。それと実利的なものに失望を感じたのは似たもののように感じる。わからないものが案外簡単、しかし逆にわかりづらくなったことに太宰は人間の矛盾、不条理を感じたのだ。次第に完成という表現から自分では成功と思っているのだろう。なんでもいいから笑わせておけばいいというのも太宰が彼らを動物としか見ていなかったことに拍車をかける。下男や下女という彼よりももっとランクが下の人々にも道化を演じたことより彼が如何に人間を恐ろしいものとみていたかがうかがえる。
次の例は道化で家族を笑わせたことが描かれてあるが「自分もそこまで変人ではない」と書いてあり、完全に自分を捨てたわけではなくプライドが残っているのだと思う。それがこぶしを固く握りしめたという表現に結びついてくるのだろう。
実におびただしい土産を持ってくる父は押しつけがましいように描かれている。そこに人間のエゴイズムが描かれてあり同時に主人公が最も解せないパートでもあったのだろう。子供とめったにしゃべらないというのにしゃべるというのが単細胞的な主人公に不可解なのだろう。
「何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。どうでもいい、どうせ自分を楽しくさせてくれるものなんか無いんだという思いが、ちらと動く」
彼の悲観的な心情が書かれている。人間に関する絶望とでも形容すればよいのか、彼の葛藤はすさまじいものがある。
「自分には、二者選一の力さえ無かったのです。」
道化の道を選んだ以上それは免れようのないことでもあるが道化と同時に彼の人間に対する潜在的な恐怖もこれに拍車をかける。彼は自己逃避のために道化を選んだのだが、かえって悪化しているように思われる。左の父親の発言には誘導尋問(?)のような部分が見受けられる。その後の主人公の復讐が恐ろしいと書いているが完全にこれは被害妄想だと思う。自分だけが罪の意識にさいなまれている。人の心情に対して繊細だったという形容もできるが深読みし過ぎだという風にも考えられる。たぶん自分の予想できる範疇に人の行動がないとそれ自体に恐怖感を感じるのであろう。


56 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:08
また自分はちっともその獅子舞がほしくないのに父の買ってやりたいという意思を慮っている様子がうかがえる。このことから彼自身は自分の意志が全く反映されていないにもかかわらず人に対して前衛的になっている様子がわかる。深夜わざわざそれを行うほど彼は人に対して恐れを抱いていたのである。その後もわざとらしい彼の家族に対する必死のサーヴィスが描かれている。陰部という自分の大切な部分をもネタにするほどである。
学校というところで尊敬されてそれは本能的なものではなく意識的なものである。そうして自分で巻き起こしたものにはなはだしくおびえる。
ここで注目したいのがすでに女中や下男から哀しいことを教えられ犯されていたという記述である。人間の行いうる犯罪の中で最も醜悪で下等で残酷な犯罪だと自分は今では思っていると書いてある。またそれを人間の特質であると書いてある。今までの文章の中で太宰は人間というものに関して俯瞰的に語っている、まるで自分がそれに所属しないかのように。今ではという記述はその時点では人間というものに関して理解できなかったのでその時にはそう思っていなかったとも解釈できる。父親の前ではいい子ぶりいないところではおおっぴらに悪口を言う。太宰はその生まれた環境が故に幼いころから人間の裏表を見せられてきたのだ。「人を欺く人」と同じ「人」になりたいがため太宰も「道化」を演じて「人」を「欺いた。」人間が自分を本当に信頼してくれなかったから太宰も人を信用することができずに下男や女中から犯されたことを父母にも言えなかったのであろう。
ここで第一の手記の解説は終わりである。この文章で考えるのが父の表現は多いのに母親の表現がほとんどないということである。これは幼少期に乳母に育てられ母親と接する機会が少なかった太宰の体験がもとになっていると考えられる。


57 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:08
B第二の手記
彼が通った中学校に主人公は彼の家と遠い親戚の家から通ったとある。これも人を信用できない彼の気質に拍車をかけたのだと思われる。またこの場所も彼の父が選んだとある。太宰の家族が彼を排斥しようとしていたとまでは言わないが、厄介者扱いしていたのは堅実であろう。
「自分の人間恐怖は、それは以前にまさるとも劣らぬくらい烈しく胸の底で蠕動《ぜんどう》していましたが、しかし、演技は実にのびのびとして来て、教室にあっては、いつもクラスの者たちを笑わせ、教師も、このクラスは大庭さえいないと、とてもいいクラスなんだが、と言葉では嘆じながら、手で口を覆って笑っていました。自分は、あの雷の如き蛮声を張り上げる配属将校をさえ、実に容易に噴き出させる事が出来たのです。」
相当な自分に関する自信とでも形容しようか、そういったものが如実に出ている。人間を恐れているものの態度とは到底思えない。
「クラスで最も貧弱な肉体をして、顔も青ぶくれで、そうしてたしかに父兄のお古と思われる袖が聖徳太子の袖みたいに長すぎる上衣《うわぎ》を着て、学課は少しも出来ず、教練や体操はいつも見学という白痴に似た生徒でした。自分もさすがに、その生徒にさえ警戒する必要は認めていなかったのでした。
 その日、体操の時間に、その生徒(姓はいま記憶していませんが、名は竹一といったかと覚えています)その竹一は、れいに依って見学、自分たちは鉄棒の練習をさせられていました。自分は、わざと出来るだけ厳粛な顔をして、鉄棒めがけて、えいっと叫んで飛び、そのまま幅飛びのように前方へ飛んでしまって、砂地にドスンと尻餅をつきました。すべて、計画的な失敗でした。果して皆の大笑いになり、自分も苦笑しながら起き上ってズボンの砂を払っていると、いつそこへ来ていたのか、竹一が自分の背中をつつき、低い声でこう囁《ささや》きました。
「ワザ。ワザ」
 自分は震撼《しんかん》しました。ワザと失敗したという事を、人もあろうに、竹一に見破られるとは全く思いも掛けない事でした。自分は、世界が一瞬にして地獄の業火に包まれて燃え上るのを眼前に見るような心地がして、わあっ! と叫んで発狂しそうな気配を必死の力で抑えました。」
太宰にとってこのとき恐ろしかったのは
@自分の道化を見破られたこと
A竹一という警戒すべき対象ではない生徒ごときに見破られてしまったこと
だと思う。文章を見る限り後者の方が傾向が強い。


58 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:09
葉蔵は日陰者として生きていくことを望み美徳のように感じていたと思われる。お化けの絵を主人公は自画像と形容している。道化を続けることで他人とは異なる自分の存在を認識しそれと同時に「他人を欺いている」事実にくるしむ。つまり道化とは主人公の存在を証明するものである。自分はお化けである、だから道化を演じ続けなければ彼がこの世の中に存在することができず彼そのものが道化なのである。主人公は自分の中に存在するお化けに気付いたとき絵を描くことで自分の素顔を再認識したかったのである。
また竹一の「お前は女に惚れられるよ」という発言は後年になっても変わらないと書かれてある。つまり、主人公は時系列の流れに関係なく主人公なのであり、「はしがき」に合った変化も微細なものでありいささか違うように見えるが奇妙という根本は全く変わっていないのである。
堀木という人物は太宰に少なからずとも影響を及ぼした。彼は
この世の人間の営みから完全に遊離してしまって戸惑いしている点が同じであるが
道化を意識せずに行いしかもその道化の悲惨さに全く気付いていないという点が違うのである。
彼に対して主人公が抱いた軽蔑は同時に自分に対する軽蔑でもあったのだろう。このころの彼は堀木に対し仲間意識を持っていた。
また彼から教わった淫売婦なるものが人間でも女性でもない存在であり存在自体が道化である主人公の心のよりどころになった。
非合法、日陰者という形容を自分に用いていてそれは生まれつき自分に備わっていると解釈している。また女と情死事件を起こしたりしていて積極的に世間のアンチテーゼになろうとしているようである。『人間失格』には多くの女性が登場する。その女性の多くは主人公に好意を寄せていて手記中にも女性について書かれているところが多々ある。然し主人公にとって「惚れられる」というのは不名誉なことであった。なぜなら「惚れられる」ということは自分の道化を許されることであるからだ。他人を欺きながらも平気で生きていられる人間に疑問を持っていた主人公にとって他人を欺く道化を受け入れられるのは不本意であった。


59 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:09
堀木が女に対して積極的であるのに対し主人公は女に対して受動的である。ここに自分というものを理解しているかどうかの差異が生まれてきているように感じる。堀木にとって
女、しいては人間は一義的なものでしかなくそれゆえ人を欺きながら「清く朗らかに」生きて行けたのである。
貧乏くさくみじめなツネ子は限りなく主人公と同類であり金の切れ目が縁の切れ目という言葉に代表されるように入水自殺によって死んだ彼女は主人公にとっての世間とつながる切れ目となってしまったのである。世間とのつながりを失った彼は家族から感動されることになる。彼の『人間失格』までの道のりにより一層拍車をかけた。
ここで彼が自殺幇助罪で保護室で警官の監視下に置かれているとき、警官から猥談の目的で彼の女とのつながりを聞かれた。答えなくてもいい質問なのだが彼は「秋の夜長に興を添えるため」それを語った。その時点で女に対する未練は全くないものだとうかがえる。この後横浜まで護送されるのであるが罪人としている方が気楽であるという記述がある。世間と真反対でいることが彼にとっての生きがいであり道化を演じるゆえんでもある。
@竹一に道化を見破られた
A検事に血痰のことがばれた
二人が登場するのは主人公が油断しているときや自分の有益のために道化を演じるときである。二人に道化を見破られるたびに主人公は地獄を見る思いをして不安や恐怖を感じることになる。欺いていることに後ろめたさを感じ罪とは何かと苦悩する存在が主人公だとすれば二人は彼にその存在証明を思い出させる役割を果たしていたといえよう。



60 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:09
C第三の手記
主人公はヒラメというあだ名の父の同郷人でまた父の太鼓持ちの部屋の二階に住んだ。本来主人公よりもランクが下の人間に世話になっていてこれ自体がもう堕落しているといえる。気持ちのしっかりしていない男で将来の方針も何も主人公にはまるで見当がつかずでいるのにヒラメから援助されるのがいたたまらないと記述してある。ここにもまだ貴族生まれの傲慢があるのであろう。誰とも付き合いがない。何処へも訪ねてゆけない。という道化として存在しているからこそ、世間のアンチテーゼとして存在しているからこそこのような現象が起こるのだろう。ここの場面あたりから主人公は自分と堀木の違いが如実に表れてくる。彼の父親が絶対的な世間であれば堀木は個人個人で変化する可変的な世間と形容できる。
また堀木でさえ、かれと同じだと思っていた堀木でさえ彼を厄介者扱いしている記述が多々見られる。堀木は主人公のことを軽蔑していたのである。
主人公の脳裏に浮かびあがってきたのは中学時代の竹一の絵であると書いてある。このような狂った人生、その原因を作ったのはまさにあの時ではなかったのか。お化けの絵はその時の作者を象徴していた。それを傑作と形容するほどなのだから現在の作者はあの時の状態よりもひどいことが推測される。
新しく交際している女性の子供の言葉を引用する。
「お父ちゃん。お祈りをすると、神様が、何でも下さるって、ほんとう?」
 自分こそ、そのお祈りをしたいと思いました。
 ああ、われに冷き意志を与え給え。われに、「人間」の本質を知らしめ給え。人が人を押しのけても、罪ならずや。われに、怒りのマスクを与え給え。
「うん、そう。シゲちゃんには何でも下さるだろうけれども、お父ちゃんには、駄目かも知れない」
 自分は神にさえ、おびえていました。神の愛は信ぜられず、神の罰だけを信じているのでした。信仰。それは、ただ神の笞《むち》を受けるために、うなだれて審判の台に向う事のような気がしているのでした。地獄は信ぜられても、天国の存在は、どうしても信ぜられなかったのです。
「どうして、ダメなの?」
「親の言いつけに、そむいたから」
「そう? お父ちゃんはとてもいいひとだって、みんな言うけどな」
 それは、だましているからだ、このアパートの人たち皆に、自分が好意を示されているのは、自分も知っている、しかし、自分は、どれほど皆を恐怖しているか、恐怖すればするほど好かれ、そうして、こちらは好かれると好かれるほど恐怖し、皆から離れて行かねばならぬ、この不幸な病癖を、シゲ子に説明して聞かせるのは、至難の事でした。


61 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:10
「シゲちゃんは、いったい、神様に何をおねだりしたいの?」
 自分は、何気無さそうに話頭を転じました。
「シゲ子はね、シゲ子の本当のお父ちゃんがほしいの」
 ぎょっとして、くらくら目まいしました。敵。自分がシゲ子の敵なのか、シゲ子が自分の敵なのか、とにかく、ここにも自分をおびやかすおそろしい大人がいたのだ、他人、不可解な他人、秘密だらけの他人、シゲ子の顔が、にわかにそのように見えて来ました。
 シゲ子だけは、と思っていたのに、やはり、この者も、あの「不意に虻《あぶ》を叩き殺す牛のしっぽ」を持っていたのでした。自分は、それ以来、シゲ子にさえおどおどしなければならなくなりました。」
道化が通じる、そして彼のことを父親だとあがめていたと思っていたシゲ子にも太宰は裏切られたのだ。
この後、堀木は「これ以上は(女道楽を)世間が許さないからな」という。堀木にとっての世間は彼が一義的であるゆえに、彼が無意識のうちに道化を行っているがゆえにそれは太宰の思う世間ではなく、堀木自身なのである。ゆえに堀木に
「汝は、汝個人の恐ろしさ、怪奇、悪辣、古狸性、妖婆性を知れ!」
と心の中で思っているのである。しかし堀木自身はそれに気づいていない。だから軽蔑しているのである。主人公は堀木を通して世間というものの実態をつかもうとしているのであろう。
太宰の書いた詩にこんなものがある。
してその翌日《あくるひ》も同じ事を繰返して、
昨日《きのう》に異《かわ》らぬ慣例《しきたり》に従えばよい。
即ち荒っぽい大きな歓楽《よろこび》を避《よ》けてさえいれば、
自然また大きな悲哀《かなしみ》もやって来《こ》ないのだ。
ゆくてを塞《ふさ》ぐ邪魔な石を
蟾蜍《ひきがえる》は廻って通る。

世間を堀木から覗こうとした太宰はあまりの堀木の馬鹿さ加減に彼をヒキガエルと形容している。然し二人の母子の会話を聞いているうちに堀木の言ったことはある意味であっていたのではないかと思いなおす。自分という世間のアンチテーゼが幸福な、道化を無意識のうちに行っている堀木にそれを意識化でやらせるように彼女らを不幸にしてはいけないと思ったのであろう。


62 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:10
次に処女であるヨシちゃんにであう。主人公と関係を持つ女性の多くは年上であったが、彼女は主人公より年下であった。しかも処女である。そして疑うことを知らない信頼の天才であった。ヨシ子との出会いにより主人公は人間らしくなるかと思われた。彼女と暮らしていたころに自分を大きな喜びも大きな悲哀も避けて通る蟾蜍だといっていた主人公が彼女と出会い「荒っぽい歓喜」を味わいたいといっている。蟾蜍から人間へ変化したいと考え始めるのだ。そして彼女の持つ美しい処女性に出会った主人公は世の中に希望を持ち始める。彼女との結婚生活は初めのうち穏やかなものだったがある事件で激変してしまう。彼女の姦通事件である。主人公が堀木とアパートの屋上で夕涼みをしている間の出来事であった。相手は主人公に漫画を描かせる商人である。主人公はその事件を目撃した時すさまじい恐怖を感じる。主人公は彼女と出会う前に「世の中というところはそんなに恐ろしいところではない」と感じていた。それは「世間とは
個人ではないかということに気付いたからである。世の中におこる恐ろしいことは科学の迷信にすぎず黙殺してしまえば恐怖感を味わうこともないと思い始めていた。それなのに事件は起きた。養造がやっと世の中を理解しかけたその矢先にすべては覆されてしまったのである。本来の罪があるからこそ罰を受けるという構図が覆され彼女には罪がないゆえに罰を受けるという新しい構図ができる。主人公にとって彼女の無垢の信頼心は崩れることはない。絶対の存在があった。然しその絶対は商人の小男に簡単に崩されてしまう。彼女の信頼心が一夜にして黄色い汚水に変わってしまった。主人公の中で世の中と彼女という絶対であるべき存在が崩れてしまったのだ。前述のとおり主人公は女性に母性を求めている。母親とは自分の根源であり全てを受け入れる絶対の存在と言い換えることができるだろう。


63 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:13
「罪。罪のアントニムは、何だろう。これは、むずかしいぞ」
 と何気無さそうな表情を装って、言うのでした。
「法律さ」
 堀木が平然とそう答えましたので、自分は堀木の顔を見直しました。近くのビルの明滅するネオンサインの赤い光を受けて、堀木の顔は、鬼刑事の如く威厳ありげに見えました。自分は、つくづく呆《あき》れかえり、
「罪ってのは、君、そんなものじゃないだろう」
 罪の対義語が、法律とは! しかし、世間の人たちは、みんなそれくらいに簡単に考えて、澄まして暮しているのかも知れません。刑事のいないところにこそ罪がうごめいている、と。
「それじゃあ、なんだい、神か? お前には、どこかヤソ坊主くさいところがあるからな。いや味だぜ」
「まあそんなに、軽く片づけるなよ。も少し、二人で考えて見よう。これはでも、面白いテーマじゃないか。このテーマに対する答一つで、そのひとの全部がわかるような気がするのだ」
「まさか。……罪のアントは、善さ。善良なる市民。つまり、おれみたいなものさ」
「冗談は、よそうよ。しかし、善は悪のアントだ。罪のアントではない」
「悪と罪とは違うのかい?」
「違う、と思う。善悪の概念は人間が作ったものだ。人間が勝手に作った道徳の言葉だ」
「うるせえなあ。それじゃ、やっぱり、神だろう。神、神。なんでも、神にして置けば間違いない。腹がへったなあ」
「いま、したでヨシ子がそら豆を煮ている」
「ありがてえ。好物だ」
 両手を頭のうしろに組んで、仰向《あおむけ》にごろりと寝ました。
「君には、罪というものが、まるで興味ないらしいね」
「そりゃそうさ、お前のように、罪人では無いんだから。おれは道楽はしても、女を死なせたり、女から金を巻き上げたりなんかはしねえよ」
 死なせたのではない、巻き上げたのではない、と心の何処《どこ》かで幽かな、けれども必死の抗議の声が起っても、しかし、また、いや自分が悪いのだとすぐに思いかえしてしまうこの習癖。
 自分には、どうしても、正面切っての議論が出来ません。焼酎の陰鬱な酔いのために刻一刻、気持が険しくなって来るのを懸命に抑えて、ほとんど独りごとのようにして言いました。
「しかし、牢屋《ろうや》にいれられる事だけが罪じゃないんだ。罪のアントがわかれば、罪の実体もつかめるような気がするんだけど、……神、……救い、……愛、……光、……しかし、神にはサタンというアントがあるし、救いのアントは苦悩だろうし、愛には憎しみ、光には闇というアントがあり、善には悪、罪と祈り、罪と悔い、罪と告白、罪と、……嗚呼《ああ》、みんなシノニムだ、罪の対語は何だ」
「ツミの対語は、ミツさ。蜜《みつ》の如く甘しだ。腹がへったなあ。何か食うものを持って来いよ」
「君が持って来たらいいじゃないか!」
 ほとんど生れてはじめてと言っていいくらいの、烈しい怒りの声が出ました。
「ようし、それじゃ、したへ行って、ヨシちゃんと二人で罪を犯して来よう。議論より実地検分。罪のアントは、蜜豆、いや、そら豆か」
 ほとんど、ろれつの廻らぬくらいに酔っているのでした。
「勝手にしろ。どこかへ行っちまえ!」
「罪と空腹、空腹とそら豆、いや、これはシノニムか」
 出鱈目《でたらめ》を言いながら起き上ります。
 罪と罰。ドストイエフスキイ。ちらとそれが、頭脳の片隅をかすめて通り、はっと思いました。もしも、あのドスト氏が、罪と罰をシノニムと考えず、アントニムとして置き並べたものとしたら? 罪と罰、絶対に相通ぜざるもの、氷炭|相容《あいい》れざるもの。罪と罰をアントとして考えたドストの青みどろ、腐った池、乱麻の奥底の、……ああ、わかりかけた、いや、まだ、……などと頭脳に走馬燈がくるくる廻っていた時に、
「おい! とんだ、そら豆だ。来い!」
 堀木の声も顔色も変っています。堀木は、たったいまふらふら起きてしたへ行った、かと思うとまた引返して来たのです。
「なんだ」
 異様に殺気立ち、ふたり、屋上から二階へ降り、二階から、さらに階下の自分の部屋へ降りる階段の中途で堀木は立ち止り、
「見ろ!」
 と小声で言って指差します。


64 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:13
自分の部屋の上の小窓があいていて、そこから部屋の中が見えます。電気がついたままで、二匹の動物がいました。
 自分は、ぐらぐら目まいしながら、これもまた人間の姿だ、これもまた人間の姿だ、おどろく事は無い、など劇《はげ》しい呼吸と共に胸の中で呟《つぶや》き、ヨシ子を助ける事も忘れ、階段に立ちつくしていました。
 堀木は、大きい咳《せき》ばらいをしました。自分は、ひとり逃げるようにまた屋上に駈け上り、寝ころび、雨を含んだ夏の夜空を仰ぎ、そのとき自分を襲った感情は、怒りでも無く、嫌悪でも無く、また、悲しみでも無く、もの凄《すさ》まじい恐怖でした。それも、墓地の幽霊などに対する恐怖ではなく、神社の杉木立で白衣の御神体に逢った時に感ずるかも知れないような、四の五の言わさぬ古代の荒々しい恐怖感でした。自分の若白髪は、その夜からはじまり、いよいよ、すべてに自信を失い、いよいよ、ひとを底知れず疑い、この世の営みに対する一さいの期待、よろこび、共鳴などから永遠にはなれるようになりました。実に、それは自分の生涯に於いて、決定的な事件でした。自分は、まっこうから眉間《みけん》を割られ、そうしてそれ以来その傷は、どんな人間にでも接近する毎に痛むのでした。
「同情はするが、しかし、お前もこれで、少しは思い知ったろう。もう、おれは、二度とここへは来ないよ。まるで、地獄だ。……でも、ヨシちゃんは、ゆるしてやれ。お前だって、どうせ、ろくな奴じゃないんだから。失敬するぜ」
 気まずい場所に、永くとどまっているほど間《ま》の抜けた堀木ではありませんでした。
 自分は起き上って、ひとりで焼酎を飲み、それから、おいおい声を放って泣きました。いくらでも、いくらでも泣けるのでした。
 いつのまにか、背後に、ヨシ子が、そら豆を山盛りにしたお皿を持ってぼんやり立っていました。
「なんにも、しないからって言って、……」
「いい。何も言うな。お前は、ひとを疑う事を知らなかったんだ。お坐り。豆を食べよう」
 並んで坐って豆を食べました。嗚呼、信頼は罪なりや? 相手の男は、自分に漫画をかかせては、わずかなお金をもったい振って置いて行く三十歳前後の無学な小男の商人なのでした。
 さすがにその商人は、その後やっては来ませんでしたが、自分には、どうしてだか、その商人に対する憎悪よりも、さいしょに見つけたすぐその時に大きい咳ばらいも何もせず、そのまま自分に知らせにまた屋上に引返して来た堀木に対する憎しみと怒りが、眠られぬ夜などにむらむら起って呻《うめ》きました。
 ゆるすも、ゆるさぬもありません。ヨシ子は信頼の天才なのです。ひとを疑う事を知らなかったのです。しかし、それゆえの悲惨。
 神に問う。信頼は罪なりや。
 ヨシ子が汚されたという事よりも、ヨシ子の信頼が汚されたという事が、自分にとってそののち永く、生きておられないほどの苦悩の種になりました。自分のような、いやらしくおどおどして、ひとの顔いろばかり伺い、人を信じる能力が、ひび割れてしまっているものにとって、ヨシ子の無垢《むく》の信頼心は、それこそ青葉の滝のようにすがすがしく思われていたのです。それが一夜で、黄色い汚水に変ってしまいました。見よ、ヨシ子は、その夜から自分の一顰《いっぴん》一笑にさえ気を遣うようになりました。
「おい」
 と呼ぶと、ぴくっとして、もう眼のやり場に困っている様子です。どんなに自分が笑わせようとして、お道化を言っても、おろおろし、びくびくし、やたらに自分に敬語を遣うようになりました。


65 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:17
果して、無垢の信頼心は、罪の原泉なりや。
 自分は、人妻の犯された物語の本を、いろいろ捜して読んでみました。けれども、ヨシ子ほど悲惨な犯され方をしている女は、ひとりも無いと思いました。どだい、これは、てんで物語にも何もなりません。あの小男の商人と、ヨシ子とのあいだに、少しでも恋に似た感情でもあったなら、自分の気持もかえってたすかるかも知れませんが、ただ、夏の一夜、ヨシ子が信頼して、そうして、それっきり、しかもそのために自分の眉間は、まっこうから割られ声が嗄れて若白髪がはじまり、ヨシ子は一生おろおろしなければならなくなったのです。たいていの物語は、その妻の「行為」を夫が許すかどうか、そこに重点を置いていたようでしたが、それは自分にとっては、そんなに苦しい大問題では無いように思われました。許す、許さぬ、そのような権利を留保している夫こそ幸いなる哉《かな》、とても許す事が出来ぬと思ったなら、何もそんなに大騒ぎせずとも、さっさと妻を離縁して、新しい妻を迎えたらどうだろう、それが出来なかったら、所謂《いわゆる》「許して」我慢するさ、いずれにしても夫の気持一つで四方八方がまるく収るだろうに、という気さえするのでした。つまり、そのような事件は、たしかに夫にとって大いなるショックであっても、しかし、それは「ショック」であって、いつまでも尽きること無く打ち返し打ち寄せる波と違い、権利のある夫の怒りでもってどうにでも処理できるトラブルのように自分には思われたのでした。けれども、自分たちの場合、夫に何の権利も無く、考えると何もかも自分がわるいような気がして来て、怒るどころか、おこごと一つも言えず、また、その妻は、その所有している稀《まれ》な美質に依って犯されたのです。しかも、その美質は、夫のかねてあこがれの、無垢の信頼心というたまらなく可憐《かれん》なものなのでした。
 無垢の信頼心は、罪なりや。


66 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:17
この引用からわかるように主人公と堀木の罪のとらえ方は根本にある部分から異なっている。そしてその違いこそ主人公が「欺きあっていながら清く朗らかに生きて行ける」人間を難解だと感じる原因でもあった。堀木が考える罪の案とA有無は法律であり、それ以上のものではない。彼にとって罪とは「縄目の屈辱」を受けることでしかないのだ。
然し主人公が考える罪とはそんなに簡単なものではなかった。彼は言葉遊びの中で罪とは何か必死に考える。それはすなわち自分の道化の下にある素顔の正体を探る行為であったといえよう。そして主人公は罪と罰はシノニムではなくアントニムではないかと考え始める。然しこの場面において重要なのは罪の正体を明らかにすることではなく罪について真剣に深く考える主人公の姿にある。主人公は言葉遊びによって主人公自信と堀木をはじめとする世間の人間との罪に対する考えの違いを目の当たりにする。そしてほかの人間は罪に対して必死に考えることなどしないことに気が付くのだ。この問答の後主人公は彼女の姦通事件の目撃者となるのだ。主人公が姦通事件で最も怒りを覚えたのは彼女でもなく商人の小男でもなく堀木であった。なぜ「最初に見つけたすぐその時に大きい咳払いも何もせずそのまま自分に知らせにまた屋上に引き返してきたのか」主人公の堀木に対する憎しみと怒りは夜も眠れないほどであった。堀木は犯されている彼女を助けるわけでもなく主人公にありのまま伝えた。

67 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:18
この行為によって主人公画すさまじい恐怖に襲われることに気づきもしなかったのだ。堀木は自分の犯した罪に気付かないからこそ「気まずい場所に長くとどま」らず主人公の前から姿を消すのである。堀木は世間の代表的な人物である。堀木との言葉遊びと罪の正体を探る問答、そして彼女の姦通事件によって主人公は人間が生まれながらにしてもつ罪、つまり原罪に気付く。今までの犯人意識や日陰者意識は自分の原罪であったのだ。そして自分が罪深き存在であることを告白することで世間の人間が原罪に気付かず生活している罪を暴いたのだ。原罪は人間の誕生から備わっている、その罪に気付かないことこそ罪である、と。原罪を自覚した主人公にとって彼女の姦通事件は宿命的であったといえる。なぜならつみを自覚していない者のところに罰はくだらないからだ。いいかえると罪を自覚していないものは罰も自覚していないということになる。つまり世間の人と主人公の不幸とでは次元が違うのである。世間の不幸というのは原罪など全く気が付いていない人たちの中での不幸である。だから世間に受け入れられ救われるかもしくは罰を受けるのである。然し主人公が感じる不幸とは原罪に気付いているからこそおこる不幸である。そのため世間に受けいれられることはない。主人公は原罪に気付いたゆえに世間から排除され続ける存在となる。つまり世間の排除という罰を受けるのである。主人公にこの罰を逃れる方法はなかった。主人公は世間で生き続ける限りずっと罰を受け続けなければならないのだ。だから主人公は絶対者を求める。自分を完ぺきに罰してくれる存在を、すべてを受け入れて許容してくれる存在を。まるで母のように。然し主人公の前に絶対者が現れることはなかった。

68 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:18
彼女の姦通事件の後主人公の生活はさらに荒れていく。焼酎を浴びるほど飲む毎日を送っていた主人公はある大雪の夜に最初の喀血をする。しゃがみこんで雪で顔を価ながらあいた主人公の行為は自分の生まれた時から存在する罪のせいで不幸から逃れられない悲しみが表れている。
喀血の後主人公は薬屋に立ち寄り足の不自由な女性と出会う。彼女もまた不幸な女性であった。そしてこの女性の死し眼で主人公はモルヒネを使用するようになりたちまち中毒者になる。家と薬屋を往復する毎日を送る主人公はいよいよ追い詰められていく。
「けがらわしい罪に浅ましい罪」、「生きているのが罪の種」、このような表現から主人公が自分の原罪をしっかりと認識していることがわかる。またその原罪を意識している限り自分は幸福にはなれないのだといっている。主人公が自殺をしようとひそかに決めたその時またも堀木が現れる。堀木の優しい微笑に完全に打ち破られた主人公が最終的に連れて行かれた場所が脳病院だった。
脳病院に入れられる場面で初めて人間失格の言葉が使われる。狂人でも廃人でもなく失格するとはどういう意味を持つのだろうか。
まずここでいう人間とは何を言うのか考えてみたい。『人間失格』の中では人間という言葉は多く使用されている。そして人間の言葉が使われるときに共通しているのは主人公が人間の一員として描かれず一線を引いて人間を見ていることだ。また人間失格の中では人間にかっこが使われている場合とそうでない場合がある。カッコつきで出すことはそれまで作中で積み重ねてきた人間観念に対する一つの整理とそれへの批評が存在するのではなかろうか。つまり主人公にとって人間とは理解しがたい「欺きあっていながら清く明るく朗らかに生きている」人間のことを指す。すなわち堀木を代表とする世間である。これらのことから人間失格は(人間)失格と言い換えることができる。


69 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:18
それではなぜ主人公は「人間」失格となったのか。私はこれまで主人公と「人間」の最大の違いは自らの原罪を自覚しているか否かだろ述べてきた。このことは『人間』失格の道をたどる理由の一つであるが決定的な理由はほかにあると考える。なぜなら主人公は不幸になってゆく自分に対して自殺は考えていたが「人間」失格だと下すことはなかった。また主人公にとって死とは「幸福を与える」ものと考えていた。自殺することによって現在から逃れ楽になりたいと考えていたのではないだろうか。
「人間」失格に至った決定的な理由は何か。それは絶対者の欠落だと考える。この絶対者とは絶対的な「罰」を与えるものと絶対的な「許し」を与えるものを意味する。主人公は原罪を意識することにより世間から排除される存在となった。生まれた時から罪人でありその罪からは逃れることができない。だから主人公は「神の罰は信じられても神の愛は信じられない」のだ。主人公は「罪人=罰を受けるもの」という「絶対的な世界」に生きていたといえる。然し主人公を裁くのはいつも世間であった。この世間とは堀木が代表する可変的な世間のことを指す。この世間において罪と罰は極めてあいまいな関係にあった。そのため主人公が罪について問答するときに答えが見つからなかったのだ。世間において罪と罰はアントニムとのシノニムとも考えることができる。
「絶対的な世界」に生きている主人公にとって自分を完全に罰する存在が不在であることは耐えられないことであった。世間は主人公を排除しようとするが完全な罰を与えることはなかった。主人公にとって(ものすさまじい恐怖)を感じた彼女の姦通事件でさえ犯されたのは彼女であり同時に彼女の「無垢な信頼心」を脅かすものであった。


70 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:20
道化とは主人公の存在証明をするもので道化は主人公そのものであったと述べた。然し自らの原罪に気付きことで主人公の存在証明は「罪を犯している」と実感することだったように考えられる。そんな主人公にとって自分の罪を罰する絶対的な存在が不在であることはすなわち自分の存在証明をすることが不可能であることを意味する。なぜなら罪とは罰を受けてこそ罪となりうるからだ。彼女が犯されたことで主人公が何度も神に問いかける場面がある。主人公は何度も神に問いかけることで絶対者が現れることを望んでいたのだ。
話は前に飛ぶが主人公のところに堀木とヒラメが来て慈悲深い口調で彼を自動車に乗せ脳病院に送り込んだ。これは詐欺的な行為である。然し私はわざわざそんなことを言いたいのではない。問題は主人公の人となりからしてそう素直に顔をそむけて泣いたり、完全に打ち破られ葬られたりしないのに、そのような行為に及んだことである。たぶん主人公は自らの存在証明をしてくれる絶対者がついに現れたと思ったのではないか。二人の性格からして似合わない行為、それをしたことで主人公は勘違いをしたのである。然し実際は脳病院であった。主人公は世間から、今まで直接的に失格者だと断定されていなかったのに世間から「狂人」というレッテルを張られてしまった。
主人公は脳病院に入れたれ人間失格となった後故郷に帰る。然し主人公を待っていたのは『かなり古い家らしく壁は剥がれ落ち柱は虫に食われほとんど修理のしようもないほどの
茅屋で老女中のテツとともに暮らし始める。主人公の手記は次のように締めくくられる。
「いまは自分には、幸福も不幸もありません。
 ただ、一さいは過ぎて行きます。
 自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来た所謂「人間」の世界に於いて、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。
 ただ、一さいは過ぎて行きます。
 自分はことし、二十七になります。白髪がめっきりふえたので、たいていの人から、四十以上に見られます。」


71 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:20
主人公にとって人間の世界、つまり世間はすでに過去のものとなってしまったことがわかる。幸福や不幸というのは世間に生きる人間が感じるも尾である。しかもその幸福、不幸というのはひどく曖昧で人間個人個人によって異なる相対的なものである。主人公は世間から排除されることによって「ただ、一さいは過ぎて行きます。」という心理にたどり着いた。可変的な世間に絶対者を求めた主人公の願いは世間にいる限り満たされることはなかった。その主人公が世間から排除されたった一つ真理と思われたもの。絶対と思われたものは時間であったのだろう。
「阿鼻叫喚で生きてきた」世界においても時間だけは絶対に平等に過ぎてゆく。時間のみが絶対であった。
二十七歳になるが四十歳以上にみられるというのは人間失格となったのが、すなわち病院にぶち込まれたのが二十七歳の時であって実年齢は四十歳なのではないか。
事実太宰治が同様に病院に入れられたのが27歳の時であって、死んだのは39歳の時なのである。

D)あとがき
あとがきでマダムはこう語る。
「私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした」
バアのマダムのこのセリフで作品が結ばれているのには大きな意味がある。恐らくこの言葉は主人公もしくは太宰の願いであった。「神様」には主人公が求めた絶対者という意味がある。だから太宰は「神様みたいないい子」という言葉を使いお酒を飲む主人公も薬におぼれる主人公もどんな主人公も変わらぬ愛で包み込んでやるのだ。主人公は人間を軽蔑しながらも誰よりも人間を愛した。世間はその愛を受け止めることができなかったが最後のマダムの言葉で主人公の愛は受け止められ初めて救われるのだ。


72 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:21
E)参考資料:太宰治の年表
年代 太宰治の出来事
1909 6月19日太宰治誕生。青森県北津軽郡金木村
大字金木字朝日山414に父津島源右衛門、母タ子(たね)
の六男としてうまれる。11人兄弟の中で10番目。本名津島修治。当時津島家は県下屈指の大地主で父は地方名士として活躍。
1916 7歳。4月金木第一尋常小学校入学。成績優秀。
1923

3月父が貴族院議員在任中に東京で死去。4月青森県立青森中学校に入学。青森市内の遠縁の家より通学。
1925 このころより作家を志望、級友との同人雑誌に小説、戯曲、エッセイを発表。また兄弟だけの雑誌も作られる。
1927 4月中学四年修了で弘前高等学校文科甲類に入学。芥川龍之介の自殺に大きな衝撃を受ける。9月、青森の芸妓小山初代と知り合う。
1928 5月同人雑誌「細胞文芸」を創刊し、辻島衆二の筆名で『無間奈落』を発表(未完)。井伏鱒二、舟橋聖一らの寄稿を得る。
1929 共産主義に強く影響され11月『地主一代』を執筆し始めたが12月途中で自己の出身階級に悩んでカルモチン自殺を図る。
1930 3月弘前高等学校を卒業。4月東京帝国大学仏文科に入学。5月井伏鱒二に初めて会い以後師事する。7月『学生群』を青森地方の同人雑誌「座標」に発表。このころより非合法運動に関係。秋、小山初代が上京してきたが、長兄が話をつけ、初代はひとまず帰郷。11月銀座裏のカフェの女給で夫のある田部シメ子を知り、3日間いっしょにすごしたのち、鎌倉郡腰越町小動崎(こゆるぎさき)でカルモチン嚥下。女のみ死亡し、自殺幇助罪に問われたが起訴猶予となる。
1931

1931 2月再び上京してきた小山初代と同棲。この年、反帝国主義学生同盟に加わり非合法運動を積極的に続け、また朱麟堂と号して俳句に凝るなどで、大学にはほとんど出なかった。
1932 春、非合法運動のため、転々と居を移す。6月、同棲以前の初代の過失を知りショックを受ける。7月非合法運動を放棄し青森警察署に自首、1か月留置される。このころから『思い出』を書き始める。12月青森検事局から呼ばれて出頭。
1933 2月初めて太宰治の筆名を用いて『列車』を「サンデー東奥」に発表。3月古谷綱武、今官一、木山捷平等の始めた同人雑誌「海豹」に参加し創刊号に『魚服記』を発表。このころ、壇一雄、伊馬鵜平、中村地平らをしる。4月『思い出』
1934 12月壇一雄、木山捷平、中原中也、津村信夫、山岸外史等と同人雑誌『青い花』を創刊。創刊号だけで廃刊となり翌10年3月「日本浪曼派」に合流。4月『葉』、7月『猿面冠者』、10月『彼は昔の彼ならず』、12月『ロマネスク』


73 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:24
1935 2月『逆行』を「文藝」に発表。同人雑誌以外に発表した最初の作品である。3月都新聞社の入社試験に落ち、鎌倉で縊死を企てたが失敗。東大を中退。4月盲腸炎で入院。手術後腹膜炎をおこし鎮痛のため使用したパビナールのため以後中毒に悩む。8月『逆行』が第一回芥川賞候補となったが次席。佐藤春夫を知り、以後師事する。この年京城にいる田中英光と手紙による交友関係が始まる。5月『道化の華』、7月『玩具』、『雀こ』、8月『もの思う葦』、9月『猿ケ島』、10月
『ダス・ゲマイネ』、12月『地球図』
1936 2月パビナール中毒が進行し、芝の済生会病院に入院するが全治しないまま1か月足らずで退院。6月砂子屋書房より処女創作集『晩年』を刊行。8月パビナール中毒と肺病治療のため赴いた群馬県谷川温泉で第三回芥川賞落選を知り打撃を受ける。10月井伏鱒二らの勧めにより江古田の武蔵野病院に一か月入院し、パビナール中毒を根治する。1月『碧眼托鉢』、『めくら草紙』、4月『陰火』、5月『雌について』、7月『虚構の春』、10月『狂言の神』、『創世記』、『喝采』
1937 3月小山初代と水上温泉でカルモチン自殺を図ったが自殺未遂、帰京後初代と別れる。この年から翌年にかけて時折エッセイなどを書くほかほとんど筆を絶つ。1月『二十世紀旗手』、4月『HUMAN LOST』、10月『燈籠』、『虚構の彷徨、ダス・ゲマイネ』、『二十世紀旗手』短編集
1938 7月ようやく沈滞から脱し『姥捨』を書き始める。9月山梨県御坂峠の天下茶屋に行き長編『火の鳥』の執筆に専念したが結局この小説は未完に終わる。11月井伏鱒二が親代わりになって石原美知子と婚約。9月『満願』、10月『姥捨』
1939 1月井伏家で結婚式を挙げ甲府市御崎町の新居に移る。4月『黄金風景』が「国民新聞」の短編コンクールに当選。9月東京府三鷹村下連雀113に転居、終戦前後を除き死ぬまでここに住んだ。2月『富嶽百景』、3月『黄金風景』、4月『女生徒』、『懶惰の歌留多』、6月『葉桜と魔笛』、8月『八十八夜』、10月『畜犬談』、11月『おしゃれ童子』、『皮膚と心』、『愛と美について』、 
『女生徒』
1940 12月第一回「阿佐ヶ谷会」に出席、以後もこの会合にしばしば出る。この年、単行本『女生徒』が第四回北村透谷賞に選ばれる。
1941 2月懸案の長編小説『新ハムレット』の執筆をはじめ、5月完成。6月長女園子誕生。8月十年ぶりに郷里金木町に帰る。9月太田静子が友人とともに初めて太宰家を訪問。11月文士徴用を受けたが胸部疾患のため免除される。
1月『清貧譚』『みみずく通信』『東京八景』『佐渡』6月、『千代女』11月『風の便り』12月『誰』『東京八景』短編集『新ハムレット』書き下ろし長編『千代女』短編集『駆け込み訴え』限定版
1942 10月『花火』を「文藝」に発表したが時局に合わないという理由で全文削除を命じられる。12月母死去、単身帰郷。1月『恥』5月『水仙』『風の便り』短編集『老ハイデルベルヒ』『正義と微笑』書き下ろし長編『女性』短編集『文藻集信天翁』エッセイ集
1943 3月に甲府に赴き前年末より執筆中の書き下ろし長編『右大臣実朝』を完成。10月『雲雀の声』を完成したが検閲不許可の恐れがあるため出版を延期。翌年ようやく出版の動きとなったが印刷所が空襲にあい発行間際の本が焼失。20年に発表された『パンドラの匣』はこの作品の校正刷を基に執筆されたものである。1月『故郷』『禁酒の心』6月『帰去来』『富嶽百景』短編集『右大臣実朝』書き下ろし長編
1944 5月『津軽』執筆のため津軽地方を旅行。8月長男正樹誕生。12月情報局と文学報国会の依頼で『惜別』を書くため仙台に赴き魯迅の仙台在留当時のことを調査。


74 名前:太宰治君 ◆NQQGWHs6 投稿日:2013/08/05(Mon) 23:24
とこんな感じです。
バドミントン部、資料の提出をお願いします。

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