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UC.ガンダム全般(総合質雑)

1 名前:アムロ・レイ ◆S1o.kilU 投稿日:2006/02/20(Mon) 10:34
僕がここのスレ主、アムロ・レイだ。ここでは宇宙世紀でのキャラクターのみの入室しか受け付けていない。SEEDキャラやアナザーは立ち入り禁止だ。よし、ルールを説明しておこう。
・キャラは名無しとUCガンダムキャラのみ
・キャラハンはトリップ必須
・荒しは無視、キャラ被りは禁止

...と、まぁこんな所か。さて僕はνガンダムの整備があるから、楽しくやってくれ。

721 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/04/04(Fri) 02:39
連邦兵A「ジオンのMSめ…墜ちろ!墜ちろぉぉぉ!」(マシンガン乱射)
連邦兵B「分解するまで撃ち込んでやるぜ!喰らいやがれ!」(マシンガン&バズーカ乱射)

連邦兵A「……殺ったのか?」
連邦兵B「へっ…大方、完全分解しちまっただろ。」
連邦兵A「ハハ、違いないな…ん?後ろから反応?なんだ?」
連邦兵B「やっと味方のご到着ってか?遅かったな、獲物は俺達が頂いたz…へ?」

722 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/05/06(Tue) 17:52

久しいな!
諸君等も壮健そうで何よりだ。

世は既に春か。
早いものだ。

戦いはいよいよ激化しつつある!
にも関わらず、こちらの戦線を疎かにしている自分が情けない。

この戦線を維持してくれる諸君等の奮戦を無にせぬ為にも、今後はより努力を重ねてゆくつもりである!
今後も諸君等とともに、この戦を戦い抜きたいと思う。
よろしくたのむ!



>>719
ふむ。
こればかりは何ヶ月も待たせるわけにはいくまい。
今宵のうちに答えるとしよう。

【ガンダム初心者なんだが、シリーズのなかで
どこから見れば面白いのか分らない。
ぜひ教えてくれ 】

君の事は司令部から聞いている!
我が軍の研究部員として、敵のモビルスーツについての資料を欲している者が居るとな。
敵のモビルスーツガンダムを知るには、連邦のプロパガンダ映像を見るのがもっとも早かろう。

もっとも、そのプロパガンダ映像もかなりの数があってな。
どこから見れば良いか悩むところだろうが・・・
私が思うに、やはり最初に作られたシリーズから見るのが良い。

そのシリーズは連作になっている。
30分で一話にまとめられた短編が47話で構成されている。
しかしそれでは一通り目を通すのにも時間が掛かり過ぎよう?

だが、心配は無用だ。
実はそれをダイジェストにして、総計7時間ほどに圧縮し、各都市の劇場で公開したものがあるのだ。

『機動戦士ガンダムT〜V』というタイトルで探せば、君の街でも見つける事ができる筈だ。
まずはこれを見て、基礎知識を頭に入れることだ。

さらにその続編として、連邦は未来戦史ものまで作っている。
これは見ずとも、全体のあらすじだけを書籍などから仕入れておけば足りるだろう。

ただし、未来戦史ものの中で、見ておくべきは『逆襲のシャア』と呼ばれる作品だ。
我が軍のトップ・エース、『赤い彗星』、シャア・アズナブルがジオンの総帥になるなどという、
私に言わせれば荒唐無稽な話ではあるが、未来の兵器の考証として、いくつか見るべき点がある。

・・・ただし。
これらはあくまで、連邦のプロパガンダ作品だと言う事を忘れるな!
連邦の悪意に満ちた宣伝に洗脳されぬためにも、次に君が見るべき作品を二つ挙げる!

一つは、かの一年戦争中、我が軍の技術試験隊の苦闘と活躍を描いた、
『MS IGLOO』シリーズだ。

これは30分×6話で構成されているが、我が軍の戦士達の魂を、
これほど忠実に再現した作品は他には無い!
必ず、目を通しておくように!

それともう一つ!
現在、我々は『星の屑』作戦を遂行中だが、同時にその記録作業も行っている。
我々の真実の戦いを後の世に伝える為にな!

その作品のタイトルは既に決定している!
『0083 STARDUST MEMORY』だ!

これのダイジェスト版として2時間の『ジオンの残光』も製作中であるが、
できれば30分×13話構成となる予定の本編を見ることを薦める!

我々の拠って立つところの正義が何処にあるか、
これを見れば君も必ずや理解できよう!

もし、それだけの時間すらないと言うの者の為に、
4分弱でまとめられた作品も用意されている。
最低限、それだけでも見ておくといい!

ただし、機密に属することなのでな、それは暗号化されていて、誰でも見れるというわけではない。
見るにはまずコードネーム:『ヨウツベ』のTOPページへ行き、そのアドレスに『』内の文字を書き加えろ!
『watch?v=DB-lPIn8sN8』


私から言える事は以上だ!



723 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/05/06(Tue) 17:53

>>687
【今回の任務はこの宙域に確認されている連邦軍艦隊の殲滅である。
敵の戦力はサラミス級2隻さらにマゼラン級1隻が確認されている。
この部隊のおかげで宇宙攻撃軍及び突撃機動軍が少なからず被害を受けている。
君たちの部隊はこの敵艦隊を殲滅する事である……
なお、敵艦隊には新型と思われる青いバイザー付きのジムが3機確認されている。
充分注意するように】


・・・諸君等に集まって貰ったのは他でもない。
総司令部より我が部隊に対し、出撃命令が下った!

先日以来、我が軍の輸送船団が詳細不明の敵により被害を受けていることは
君達も知っていよう。
だが、ついにその敵部隊に関する情報をキャッチしたのだ!

それによると、敵は戦艦を含む艦隊であり、新型と思われるモビルスーツを搭載しているという。
小艦隊とはいえ、その戦力は侮れん。

かかる敵を放置すれば、我が地上軍への物資投下に大いなる脅威をもたらすだろう!
一刻も早く、この敵を捕捉し、撃滅しなければならん!


ドズル閣下もこの問題を深刻に受け止めておられる。
元より我が軍に余剰兵力など在りはしないが、今作戦においては最大限の戦力を投入する!

投入するのは我が第302哨戒中隊の他、モビルスーツ中隊2個、計36機。
艦隊戦力は巡洋艦戦隊を3個、即ち、ムサイ級軽巡9隻だ!

・・・敵の詳細な戦力が不明である以上、兵力の逐次投入は危険だ。
確実に敵を殲滅し、味方の被害を最小限に食い止めるためには、
こちらも最大限の戦力集中を行い、兵力と火力で敵を圧倒するのが最上である!


では、これより作戦計画を説明する!
本作戦は3段階に分けて実施するものとする!
説明を聞き逃すなよ!

まずは第一段階。
第2戦隊は敵正面に進み、全モビルスーツを発艦させ、敵艦隊へと向かう。
さすれば、その迎撃に敵の新型モビルスーツが出て来る筈であるから、これと軽く交戦しつつ後退。
後退しつつ、敵モビルスーツ隊を誘引し、これと敵艦隊とを引き離し、その相互連絡を困難な状況におく。

つづいて第二段階。
敵艦隊と敵モビルスーツ隊の分断を確実なものとすべく、第3戦隊はその中間に割り込む。
第3戦隊はその総力を挙げて敵艦隊を足止めし、敵モビルスーツ隊との再合流を阻止すべし!

そして第三段階!
我が第1戦隊は第3戦隊とともに敵艦隊と敵モビルスーツ隊の中間に割り込む。
ただし、その攻撃の指向する先は敵艦隊に非ず!
敵モビルスーツ隊へと進路を変じ、その背後を襲い、第2戦隊と挟撃態勢を築く!
両戦隊のモビルスーツ合計24機をもって敵を撃滅するのだ!

諸君!
この宇宙はスペースノイドたる我々のものだ!
招かれざる客人どもを一人残らず叩きだし、地球にしがみつく以外に
能の無い劣等人種どもに現実というものを教えてやれ!




724 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/05/06(Tue) 17:54

>>688
【ノイエ・ジール、デカ杉 】


・・・モビルアーマー、ノイエ・ジール。

頭頂高 76.6m
全備重量 403.5t

フフ、私もこの機体を初めて見た折は、そのあまりの雄偉に驚いた。
そして同時に感動を抑える事が出来なかった。

これほどに巨大なモビルアーマーを実用化しうる、我が軍の技術力と、
それを生み出すべく不断の努力を重ねたであろう、多くの同胞達の魂に!
まさにこれこそ、彼らの精神の結晶・・・

そう!
ジオンの精神が形となったものだ!

通常、これだけの質量を持った物体を高速で機動させ、
さらに敵弾回避の為の急激な方向転換などさせようものなら、
その質量の巨大さそのものがアダとなり、空中分解を起こすは必定だ。

にも関わらず、この機体はその巨大さを原資とする圧倒的な火力と防御力だけでなく、
モビルスーツにも引けを取らぬ機動性をも併せ持っているのだ!

この機体の実用化にあたって、その製作に携わった技術者やテストパイロット達の辛苦は、
想像を絶するものがあったに相違ない。

しかし彼らはその困難を乗り越えて、ついにこれだけのものを創り上げたのだ!
全ては・・・ジオンの再興の為に!


フフン!
これほどの機体を造る事は連邦には到底出来まい!

それは技術的な問題によってではない!
あらゆる困難を克服し、祖国の為に戦うという精神の有無の問題だ!

私は・・・この機体の乗り手に選ばれたことを誇りに思う!
武人にとって、これほどの名誉は他にあるまい!

このジオンの栄光を具現化した、新たなる剣を手に、連邦の亡者どもを薙ぎ払って見せようでは無いか!




725 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/05/06(Tue) 17:54

>>689
【このっ!このぉぉぉ!お前等のせいでみんな死んだんだ…
畜生…ちくしょおおおお!! 】


ほう、仇討ちか。

フ・・・。
分からぬでもない。
随分胆を舐めたようだな・・・。

しかし・・・
貴様如きがどう足掻こうと、私の勝ち戦に花を添えるだけだ!
(スロットル・レバーを押し込み、スラスターを全開にする)


どうせ余命いくばくもない貴様だが・・・教えてやる!

貴様ら如き連邦の兵がいくら歯を食いしばったところで、所詮は私戦に過ぎぬ!
何故なら、貴様ら連邦に初めから大義なぞというものは存在せんからだ!
(GMに肩から体当たりを食らわせ、吹き飛ばす)


戦う理由を解せず、解そうともせず!
ただ組織の歯車となって戦うしか術を持たず!
仮に旺盛な闘志を持ったとて、それが怨恨や憎悪に基づくもの以外では有り得ぬ貴様に!
(ビームナギナタを振りかざしつつ突進し、態勢を崩したGMとの間合いを一気に詰める)


この私は倒せぬ!
(大上段からGMを叩き割る)

・・・私は義によって起っているからな!
歯車となって戦う男には解かるまい!




726 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/05/06(Tue) 17:55

>>690
【どうせ帰る艦が無いんだ、この命くれてやる!!(ジムがスプレーガンを撃ちまくる) 】


帰るべき母艦も持たぬ根無し草め!
大人しく降ればよいものを死に急ぐか!

ふむ・・・
連邦の兵にしては希有かもしれんな。
敵に降るくらいならば、一人でも多くの敵兵を道連れに玉砕しようとの覚悟を持つとは。

だが、死兵と化した敵ほど危険なものもない。
古来、優勢とされた軍が、窮鼠と化した敵に撃破された例は枚挙に暇がない。
ならば・・・

各機!
この敵にむやみに近付くな!
このような戦略的に無意味な戦闘で、貴官らを喪う訳にはいかぬ!

この敵は私が仕留める!
決して手を出すなよ!


・・・連邦兵め、来るがいい!
死中に活を得んと欲するならば、見事この私を倒して見せよ!
>>690のGMに>>691のリック・ドムが踊りかかる)


・・・何っ!?>>691のドムが!?

何をしている!
下がれと言った筈だ!
(短いが激しい砲火の応酬の後、GMもリック・ドムも沈黙する)


>>691
【あ…隊長…
ハハ…これくらい…平気ですよ
少しミスって…ちょっくら…ジムの弾を…うけたけど… 】


・・・くっ!
何故だ、何故我が命に反する行動を取った!?


【隊長のバズーカに、あと二発しか弾頭が残ってなかったでしょ?
それじゃまずいと思って。
でも、そんなに…心配しなくても…大丈夫ですって…
ちょっと悪いけど…疲れた……少しの間…眠らせて…く…れ…………ガクリ 】


馬鹿者が・・・!!
私の指示に従えぬばかりか、上官の技倆を疑ったのか!?

・・・くっ、貴様のような不心得者を、この我が隊の所属に置くわけにはいかん!


母艦に連絡!
ただちに負傷者の応急処置と、ソロモンへの後送の準備を取るようにと!


>>691
貴様の身体と性根が治るまで、我が隊への復帰は認めんからな!

傷が治癒するまで時間はたっぷりある。
病院のベッドで十分に反省し、そして・・・


必 ず 戻 っ て 来 い ! 




727 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/05/06(Tue) 17:56

>>692
【ガトー少佐いるか?
わたしはモニク・キャデラック特務大尉だ 】


来たか・・・モニク・キャディラック特務大尉。
一年戦争中、総帥府直属の二階級上の中佐相当官だった人物。
オデッサ上空、ソロモン、そしてア・バオア・クーで顔を会わせた事はあるが、
多くの言葉を交わすのは今回が初めてだな。

・・・よし、すぐにお通ししろ!




・・・『茨の園』へようこそ、特務大尉殿。
0083年に至ってからのサイド3の現状について、情報を頂けると伺いましたが?

・・・なんですと?
この『茨の園』が・・・

出 来 損 な い の お 化 け 屋 敷 に 見 え た と ! ? 

これは聞き捨てなりませんな!
とても公国の中枢に在り、その戦士達の活動に通暁しておられる筈の、
特務大尉殿のお言葉とも思えません!

この『茨の園』は、廃棄されたコロニーを再利用し、それを中心に各所から
太陽電池版や建設資材、水素タンクなどの物資を曳航し、組み合わせて築いた一大根拠地です!
此処には補給港としての機能だけでなく、モビルスーツ工場をも併設されております!

連邦の監視の目を逃れつつ、これだけの拠点を築き、維持するのにどれほどの労苦を払ったか、
あなたには全く理解出来ぬものと見える!


・・・サイド3についての情報提供には感謝致します。
ですが、私があなたと一対一で話す必要は何もありますまい!

幸い、デラーズ閣下は今、執務室におられる。
デラーズ閣下のもとへご案内致しますゆえ、そこでお話いただきたい。
それがご不満ならば、ただちにこの『茨の園』を退去されるがよろしかろう!




728 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/05/06(Tue) 21:29
ガトーはそろそろ大佐になったかな?

729 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/05/24(Sat) 19:08
緊急事態が発生した!地球から撤退している部隊がいるのだが
先ほど偵察部隊がこの宙域に木馬を発見したらしい、しかもその宙域は友軍が通るルートみたいだ
さらに運が悪い事にミノフスキー粒子のおかげで友軍はその宙域に木馬いると知らないらしい。
このままだと友軍部隊は木馬から奇襲を受けてしまう、地球から命辛々逃げてきた部隊だ…何としても友軍を守ってほしい!
我々の艦隊も向かっているが、君達がその友軍に一番近い部隊だ、我々の艦隊が到着するまで彼らを守ってくれ!

友軍の戦力はパプア級2隻、護衛艦としてムサイ級1隻、MSは07Bや06Jだから戦力はあまり期待できん、君達の部隊が要だ、頼むぞ…!

730 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/06/01(Sun) 18:07
これを作ったぞ。
つ【パーフェクトガンダム】

731 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/06/01(Sun) 18:09
これを10年かけて作ったぞ!!
つ【無敵戦艦義綱】
早速試しうち。
喰らえ!超銀河波動砲!!!!

732 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/06/01(Sun) 19:14
黒い三連星が再び動き始めたよ?

733 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/07/13(Sun) 19:20
さすが少佐、第二次世界大戦にもお詳しい様子。>>710

大日本帝国は緒戦破竹の進撃を続けたとはいえ、アメリカ合衆国本土には
事実上かすり傷も与えられず、その工業生産力を削ぐことはできませんでした。

一方ジオンは一時は地球の約三分の二を制圧し、少なからぬ資源を押さえ
連邦の生産力を相当に削ぎえたにもかかわらず、結局日本同様に
敵の物量に圧倒されて今の状態となったのはどこに原因があるとお考えですか。

734 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/07/18(Fri) 17:31
フフ…良い……空だ…。

なぁ、ガトー…息子に……すまなかったと…伝えてくれ……。

ドゴォォーーーン!!!【メガ粒子砲の直撃を受け、ゲルググが爆散する】

735 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/07/19(Sat) 17:53
連邦兵「艦長、敵モビルスーツ接近してきます!」
さすがに『ドロワ』への特攻とばれているか…
敵機を近づけるな!弾幕を張るんだ!メガ粒子砲も発射しろ!銃身が溶けてもかまわん!
敵空母へ特攻するまで持てばいい!とにかく撃ちまくれ!(サラミス級が弾幕を激しくする)

連邦兵「機関部に直撃!出力が70%に低下!艦長!」
あと少し!あと少しなんだ!頼むから持ってくれよ!サラミス!

736 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/07/20(Sun) 00:44
連邦兵A「畜生!このまま全滅するのか!?」
連邦兵B「くそっ!ここまでか…!?」
ジオン兵A「へへっ、覚悟しな!アースノイド……!?」(リックドムU爆散)
ジオン兵B「な…何だ!?敵の増援!?」
連邦兵A「RX−78−2……ガンダムか!いけるぞこれは!」
連邦兵B「ガンダム!?よ…よし勝てる、勝てるぞ!」
連邦兵C「ヒュ〜まさに連邦軍の救世主だよ!アイツは!」
ジオン兵B「し…白いMS!?嘘だろ!?こんな宙域に!?」
ジオン兵C「白いヤツだと!?か…勝てる相手じゃねぇよ!どうすりゃいいんだ!?」

737 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2008/07/21(Mon) 12:27
なぁガトー、お前はこの戦いをどう思ってるんだ?

俺?俺はこの戦いの閃光の果てに何かを見出したいんだよ…
俺にはジオンの独立なんて二の次、ただこの閃光の果てに何が見出せるのか知りたいんだ
もしかしたらこの戦いの閃光の果てに何かが分かるかもしれないな…

ん?連邦軍のご登場か、それじゃあ行くとしますか。

738 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/06(Wed) 01:57
遅くなってすまなかった。
余りにも帰還に時間が掛かってしまってな、総帥部にも迷惑をかけてしまった。

軍人として恥ずかしい限りだ。


だが、私も武人だ。
この失点は、必ず挽回するつもりでいる!


今日は帰還の挨拶だけだが、3日以内、つまり、どんなに遅くとも
8月9日までには今回の我が任務につき、諸君らに報告するつもりである!


此度は少々手の掛かる任務ではあったからな。
今までより、報告文の分量は多くなるかも知れんが、よろしく頼む。



では、また会おう!
我が戦友たちよ!


739 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 06:33
ようやく報告書がまとまった。
遅くなってすまなかったな。

さて、その報告とは他でもない、
>>698
【衛星軌道上に打ち上げられたHLVの迎撃任務、思ったよりも楽に終わりそうだな
迎撃に出てる06Jや07Bじゃジムやボールの敵じゃないし】

に対してのもで、いわゆる『オデッサの戦い』についてのものだ。

本日の夜から未明にかけて報告を開始する。
多少長い報告にはなるが、よろしく頼む。

以上だ!



740 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:36

さて、なかなか期日が守れずに申し訳なかった。

では、さっそく報告を始めよう。

といっても今回はいつもと趣向を変えて、私の古い戦友が
退役後にまとめた手記を紹介しようと思う。

その手記とは『オデッサの戦い』に関するものだ。


彼は、その戦いで人生が大きく変わったと言っていた。
それがどのような戦いであったのか、より良く知る為に、
彼は退役後、各地に散らばった戦友の元を訪れては、
取材に勤しんだらしい。

私も取材を受けた一人だ。

他にもたとえば、彼はその過程で、このような通信記録を入手している。

>698
【衛星軌道上に打ち上げられたHLVの迎撃任務、思ったよりも楽に終わりそうだな
迎撃に出てる06Jや07Bじゃジムやボールの敵じゃないし
すぐにカタをつけるか……ん?
やっとジオンの救援部隊のご到着ですか、よし!そっちもお相手するか。 】


さらに、>>694>>699>>720>>721>>729>>732なども、彼の取材の
成果であるらしい。

この手記は非常に長いものだ。
長い話を聞くのが苦手なものは、今回の話は聞き逃してもらって構わん。


それでは、はじめようか。



741 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:37

(01/51)

【宇宙世紀0079
11月9日 07:40 
サイド5 ルウムの宙域】


漆黒の宇宙に輝く膨大な数の星々が、凄まじい勢いで流れてゆく。
それはさながら、光の粒子が激流と化した、巨大な光の滝だった。
 
しかも滝の流れは一定ではない。
その大瀑布は、ある時は無限の深遠に向かって落ちかむかのようであり、またある時は
烈風のように視界の外へと駆け抜けてゆく。

だが無論、星々が宇宙を駆け回ることなどありはしない。
そう感じるのは、それらを見る側が動いているからに過ぎない。  


物言わぬ星々をモニターの中で回天させ、光のサイクロンに仕立て上げつつ疾駆する
のは、『MS−09R リック・ドム』と呼ばれるジオン軍の新鋭モビルスーツだった。


「さあ、これならばどうだ!」

アナベル・ガトー大尉はスロットル・レバーを目一杯押し込んだ。
彼の操縦に応え、リック・ドムの各所に設置された巨大な熱核ロケットエンジンが唸りを
あげる。

ガトーの身体は、何者かに突き飛ばされたかのようにシートに叩きつけられた。
ツィマット社自慢の土星エンジンが生み出す推力は、爆発的とさえ言えた。


「なるほど・・・!
悪くない!」

ガトーは、圧倒的な加速によるGに身体を軋ませながらも、その感触に満足していた。
しかし、すぐに表情を引き締める。
前面のモニターに、一機のザクがカットインしてきたからだ。

「こちらの動きを読んでいたか、流石はボブだ!」

コントロールレバーを左へ倒し、同時にフットペダルを蹴り上げる。
リック・ドムは跳ねるように機動し、急角度の方向転換を行う。

「な、なんだ!?」

ドムの方向転換はザクのパイロット、ボブ少尉から見れば殆ど直角に曲がったとしか
思えないほどの急激なものだった。

彼が驚く間にもガトーのドムはさらに機動を重ね、ボブの背後を奪う。


「残念だったな、ボブ少尉!
これで貴官の小隊は全滅だ」

ザクの背にロケット・バズーカの砲口を押し当てる。
ボブは抗戦を諦め、ザクは両の手を挙げる。

そしてそれは、リック・ドムのテストを兼ねた模擬戦闘訓練の終了をも意味した。




742 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:38

(02/51)

「参りましたよ中隊長殿、俺達の完敗だ。
ったく、ゲイリーとアダムスキーがもっと粘ってくれりゃあ。
それにしても・・・」

すでにガトーによって”撃墜”されていた彼の部下、ゲイリー曹長とアダムスキー曹長
の抗議の声を聞き流しつつ、ボブはモニターの中でガトーに向き直る。


「最後の最後くらい、一矢報いたかったんですがね。
このまま地球に降りるのは心残りってものですよ」

普段、粗放なほどの闊達さと、巌のように無骨な容姿を持つ彼らしくもなく、表情は
神妙そのものだ。

本来ならば、そのギャップに可笑しさを感じても良い筈だったが、ガトーは笑わなかった。 


「来週だったな。
貴官らが地球へ降りるのは」

「ええ、アフリカに降りる事になっています。
そりゃあ、あそこのノイエン・ビッター閣下はデキる人だとは聞きますし、やりがいも
あるでしょう。
ですが、小官らとしては、最期までソロモンの海で戦いたかったんですがね」


ボブの気持ちはガトーにも痛いほど良く解かる。
ガトーは、ボブらが最期まで宇宙で戦いたがっている事を知っていた。
 
いや、それはジオンの軍人ならば当然の感情だったろう。
宇宙で生まれ育った彼らは、自らを新時代の旗手たる宇宙の民である事を誇りとして
おり、自然、宇宙で戦い、死ぬ事を本望としていたからだ。


だが、ガトーは軍人として、あるいは上官として、こう言わねばならない。 

「少尉。
貴官も戦局が日々、厳しさを増しているのは知っていよう。
オデッサでは連邦の大反攻が行われているそうだしな。
連邦の死命を制するには、地球上の戦いに勝ちつづけ、ジャブローを占領する以外に
ない。
宇宙であれ、地球であれ、祖国の防衛の為に戦うことに変わりはないのだ」

もちろん、嘘で言っているのではない。
それはボブにも分かっていよう。

それでいい。
それだけで彼らの間ではすべてが成り立つ。
互いの階級がどうあれ、苦楽をともにした戦友とはそういうものだろう。 


確かに、ガトーも戦局の悪化を感じ取ってはいた。
が、この戦争におけるジオンの勝利そのものについては疑っていなかった。

何故なら、ジオンの勝利、すなわちスペースノイドの勝利と独立の獲得は、
人類が宇宙に生活の場を広げていく過程の歴史的必然というべきものだからだ。
 

かつて、フランスの民衆が王政を打倒しえたのも、ろくな軍事組織も持たぬアメリカ人が、
世界最強の大英帝国との独立戦争に勝利しえたのも、決して偶然などではない。 

それぞれの民族が、自主自立の意識と自覚に目覚めた末の、それは必然だった。
 

そして今。
スペースノイドに対して、その歴史の力学が作用する土壌はとうに形成されている。

連邦の為政者どもが、いかに策謀を弄したところで、この流れを止められる筈がない
ではないか。


ガトーはそう信じていた。

だが、歴史はなお、彼らスペースノイドに対し、試練を課そうとしていたのかもしれない。
そのとき、彼のコクピットに鳴り響いた警報は、その接近を報せるものだったのか。
 

規則的に鳴り響く警報音に、ガトーは言い知れぬ不吉な感覚を覚え、眉根を寄せた。
彼は点滅する警報ランプを数秒間睨みつけていたが、ついに意を決してコンソールに
手を伸ばす。

彼の操作に応え、戦術モニターに短い通信文が表示される。


『発、艦隊総司令部
地球ニ最寄ノ全テノ艦艇ハ 現在ノ任務ヲ中断シ タダチニ地球軌道ニ集結セヨ 』

 
全ての任務に優先しての、地球軌道への集結命令。
この短い電文の意味するところは、彼にとって、いや、ジオンにとって重大極まりない
ものだった。

それは―――

「これは・・・オデッサが陥ちたというのか!
馬鹿な!」




743 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:39


(03/51)

【その3日前。
11月6日 東ヨーロッパ オデッサ鉱山基地】


オデッサ鉱山基地、地下司令室。
ただ広いだけの無機的な部屋には不釣合いな、涼しげな音が響き渡る。


「良い音色だろう?」

優雅なほどの手つきで陶器製の壷を弾いてみせたのは、ジオン公国軍、オデッサ
防衛司令官であるマ・クベだった。


「はあ、良い物なのでありますか?」

ウラガン中尉は全く興味の無いことを聞かれた困惑を隠そうとしたが、完全には成功し
得ていないという体で答える。

だが、マ・クベにその程度の小さな非礼を意に介した風は無い。
いや、それどころかこの男は、ワインを味わうような風情で部下の不器用な反応を愉し
んでいたのかもしれない。


「ああ、北宋だな」

その白肌はどこまでも儚く、美しい。
特に、北宋時代は中国陶器文化の最盛期といって良い。

華北と呼ばれる中国東北部の定窯で作られた白磁は、現代の職人が真似しようにも
真似のできぬ味わいがある。
英語の『China』は、中国を指すと同時に、陶磁器の意味をも持っている。

良くぞ言ったものだ、とマ・クベは思う。

幾多の職人一人一人の名が残ったわけではない。
だが、彼らがそこで働き、戦い、価値あるものを産み続けた結果は、こうやって千年の
時を経ても美しいまま残り、その名は不滅のものとなったのだ。

では、自分の名は歴史に残るのだろうか。
歴史は、自分をどう遇するのか・・・。


「要件を聞こうか?」

ウラガンにしてみれば、いきなり美術品に関する問答を切り上げ、話題を変えたように
しか見えない。
しかし、そのあたりは心得ているのか、ウラガンは背筋を伸ばし、上官の要請に応じて
敵状の報告を始める。


「は、連邦軍はこのオデッサに対して、西、北、東の三方向より迫っております。
西からはレビルの指揮する第1軍集団が接近中で、兵力はおよそ200万。
北からはオーバーベイの第2軍集団、兵力120万。
東からはマザーウェルの第3軍集団、兵力60万。
敵の総兵力は380万超、実に我が軍の4倍であります」


「ふむ。
しかし、エルランから、第2軍集団は作戦に間に合わぬという情報が来ていたな?」

マ・クベは白磁の壷を手に取り、慈愛に満ちた目でそれを愛でながら、連邦のレビル
大将の幕僚であるにもかかわらず、ジオンのスパイとして情報を流し続けるエルラン
中将の名を挙げた。


「はい、北欧戦線を転戦していたオーバーベイはやや遅れているようです。
彼らがモスクワを進発したのが10月26日でありますから、作戦参加には少なくとも3日
のタイムラグが生じるものと思われます」

「よろしい。
ならば我々は、オーバーベイを除く260万の敵だけを相手にすれば良いという事だ。
いや、西部戦線に限って言えば、200万対90万ということになる。
脆弱な連邦軍に対してこの兵力比ならば、十分に勝機はある。
そうだな、ウラガン?」




744 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:40


(04/51)

あまりに自信に満ちた司令官の様子に、ウラガンは反問する機会を逸しそうになった。
たっぷり数秒間をかけて、ようやく懸念がある旨を述べる。


「し、しかし、万が一、オーバーベイが早く到着した場合に備え、北部戦線には10万
程度の兵を配置しておくべきではないでしょうか。
それと、我々は東部戦線にも6万の兵しか置いておりません。
マザーウェルの60万を引き受けさせるのは、いささか荷が勝ちすぎるように思いますが」


正論だろう。

ジオン軍の擁する兵力、およそ100万のほとんどを西部戦線に集中させるというのは、
あまりにもリスクが大きすぎるように思われた。

しかし、マ・クベにも彼なりの正論がある。

「これ以上、西部戦線以外に兵を割くわけにはいかん。
まして、現れる見込みの無い敵のために、10万もの兵を割くなど出来ぬ相談だ」


マ・クベの口調は穏やかだが、壷からウラガンに移した目は、決して笑ってはいない。
ウラガンは、反問したことを多少後悔した。

マ・クベにとって、常識的な戦略などと言うものは必要ない。
必要なのは、勝つ為の戦略であった。
いくら教科書通りの戦略戦術を駆使しても、戦いに敗れては元も子もないのだ。


「それと、東部のマザーウェルと戦うのは6万ではない。
6万のうち、セヴァストーポリ要塞を守る3万に、マザーウェルの足を止めさせるのだよ」

平然と、東部戦線の友軍に対し、さらに過酷な要求を突きつけてみせる。

決して表情が豊かではないウラガンが、さすがに唖然とする。
そんな彼に、マ・クベは彼なりの”正論”を解説してやった。

「あれは古くから難攻不落を謳われ、近代においても英仏人やドイツ人に大量の出血を
強い、数百日に及ぶ膨大な時日を空費させた要塞ではないか。
だが今回、彼らはほんの数日の間だけ敵の足を止めてくれればいいのだ。
古の先人が成した事に比べれば、そう難しいことでもあるまい?」


マ・クベは壷をなでる手を止め、再びそちらに視線を移し、じっと見入る。

「セヴァストーポリは、マザーウェルという大波に飲み込まれた岩礁のようなものだ。
いずれは陥ちるだろう。
しかし、セヴァストーポリの守備隊は犬死ではない。
彼らは救国の英雄として永遠の存在になるのだよ」


マ・クベはうっとりと、壷に映った自分の顔に向かって微笑んだ。


「そう、私がこの戦いに勝利することによってな」


彼にとって、そこに映っているのは、真の英雄となるべき男の会心の笑顔だった。




745 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:40


(05/51)

【同日
クリミア半島 セヴァストーポリ
ガイタヌイ 207高地】


「ったく、冗談じゃねえよ!」

ヴァルター・ヴィットマン中尉はセヴァストーポリの地面を思い切り蹴り上げた。

「俺達は戦車兵だ!
それがなんだって自分の戦車を土の中に埋めにゃならんのだ!」

「しょうがないですよ、命令なんですから。
文句なら、司令官に言った方がいいんじゃないですか」

ヴィットマンの蹴り上げた土が掛かったわけでもないのに、わざとらしく服の埃を払って
みせたのは、戦車通信士兼装填手のエンリケ・マルコヴィッチ伍長だ。

まだ若く、あどけない顔立ちをした十代後半の兵だった。

彼はモビルスーツパイロット志望だったが、何の因果か戦車隊に配属された。
それが面白くなかったらしい。
ヴィットマンに対しても万事態度が反抗的だった。

とはいえ、ヴィットマンの方はそう深刻には捉えておらず、生意気で多少扱いづらい
餓鬼という程度にしか思っていなかったが。


「おい、マルコ!
てめえには戦車兵としての誇りはないのか!」

マルコヴィッチはわざとらしく溜息をつくと、面倒臭そうにそっぽを向いてしまった。

代わって答えたのは、髭面の戦車操縦士、クルト・レッチェ少尉だ。
彼は小指よりも短くなった煙草をちびちびと吸いながら、他人事のように答える。

「敵を防ぐのはモビルスーツの役目。
俺たちはその邪魔をせず、隅っこの方で大人しくしてろという事でしょうなあ」


白けた奴らだ。こんなことだから、戦車兵はモビルスーツ乗りに馬鹿にされるんだ。
そう思うと、ヴィットマンとしてはますます面白くない。
一つ舌打ちして、ポケットから煙草を取り出し、いかにも不味そうに吸い始める。

そして、彼の目の前で作業を続ける、白けた部下達以上の不機嫌の種を見やる。


『MS−06 ザク』。
戦車から地上戦の王者の座を奪った新兵器。

そのザクは、彼らの戦車、マゼラ・アタックの車体部分を地中に埋める作業を終え、
さらに露出した砲塔部に被せる為の、鉄製の掩体を手にしていた。

「まったくもって忌々しい。
あいつらのお陰で働き場所を奪われたあげく、いつの間にか連邦の反撃を受けて、
今度は土に潜れだと?
馬鹿にしてんのか!」


防護用の掩体を砲塔に被せ終えたザクが顔をあげ、煙草を投げ棄てたヴィットマンを
モノ・アイに捉える。

「なに騒いでいるんだ。
戦車をタコツボに埋めてやったぞ。
あとはお前らの仕事だ、目隠しをしなきゃならんのだろうが。
ったく、役に立たねえ奴ら・・・」

「んだと!
もういっぺん言ってみろ!」

目の色を変えて怒鳴ったのは、ヴィットマンではなく、マルコヴィッチの方だった。
普段は斜に構えてクールを気取っているくせに、若さによる血の気の多さは隠しようが
無いようだ。

「よせ、マルコ!」

こうなると、年長者のヴィットマンは激発する機会を失い、なだめ役に回らざるを得ない。
隊長も大人になりましたなあ、などとクルトに言われるのはこの為である。

そのクルトはヴィットマンの横で、彼が棄てた煙草を拾い上げている。

別に、突然エコロジーに目覚めたわけでもあるまい。
ただ単に、まだ吸えるかもしれない煙草が惜しいだけに決まっている。

まったく、どいつもこいつも・・・
そう思ううちにヴィットマン自身の怒気は沈静化していた。


「ラース、お前も仕事が終わったんならもう用はないんだろ。
とっとと消えろよ」

ヴィットマンに言われて、アルノ・ラース中尉のザクは肩をすくめて見せた。
あれで謝罪したつもりなのだろうか。

それにしても、あんなところまで人間みたいに出来ていやがって。
どこまで忌々しいんだ、モビルスーツって奴は。


立ち去るザクに背を向け、彼の愛すべき部下達に向かってどなる。

「クルト、マルコ!
仕事の続きだ、さっさと終らせるぞ!」




746 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:41


(06/51)

セヴァストーポリ要塞。
ジオン軍の要衝・オデッサの衛星基地である。

もともと『オデッサ』は、黒海北岸の港湾都市の一つであったに過ぎない。

だが、ヨーロッパ大陸を席巻したジオン軍は、この港から北の旧ウクライナ地方にまで
及ぶ広大な地域を総称して『オデッサ』と呼び、地球経略の最重要拠点としていた。


何故ならば、この地域に埋蔵された鉱物資源の量は実に膨大であり、特に鉄、マンガン、
チタン、ウランの埋蔵量は全世界でも屈指だったからだ。

資源に乏しいジオンにとって、オデッサはまさに宝の山だった。

その宝の山を守るべく、東の鎮めの役割を担ったのが、セヴァストーポリ要塞だった。

この大要塞は、オデッサ港から南東300キロに位置している。
オデッサを頭に例えれば、黒海を抱きかかえるようにして南東に向かって延びた腕が
クリミア半島であり、その指の先の部分にセヴァストーポリが在ると言えよう。


このセヴァストーポリを含むオデッサ東面の攻撃を担当したのが、マザーウェル中将の
連邦軍第3軍集団であり、兵力は機械化歩兵師団34個を中核とする64万3000で
あった。

一方、オデッサの東部に展開するジオン軍の守備兵力はわずか6万6000に過ぎず、
そのうち、東部戦線最大の拠点であるセヴァストーポリには、3万4000が配置されて
いるだけだった。

連邦軍のマザーウェル中将は、麾下の全力を挙げてセヴァストーポリを攻撃するつもり
だったから、彼我の兵力比は20対1になるだろう。


マ・クベから増援を拒否された、哀れなセヴァストーポリの防衛司令部は、正面から
マザーウェルの大軍と戦う愚を避け、要害の地に拠って、少しでも長く防衛線を支えよう
と試みざるを得なかった。

彼らはその一環として、よほど整備状況の良い一部の車両を除き、殆どの戦車を地中に
埋めてしまい、据付の砲台として使うことにしたのである。

連邦軍は圧倒的な兵力を利し、初手で制空権を確保し、要塞攻撃前の準備攻撃として、
徹底した空爆と砲撃を加えてくるだろう。

そうなれば、機動力に乏しい戦車をいくら戦線に並べておいたところで、戦う前に全て
撃破されてしまうだろうことは目に見えている。

ならば、丘陵地帯の陰の地中にでも埋めて身を守らせつつ、防御用の砲台として活用
した方が良い、というのが彼ら防衛司令部の判断であったのだ。


ヴァルター・ヴィットマン中尉が、屈辱に身を震わせながら自らの戦車を土に埋めたのは
その為だった。




747 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:42


(07/51)

【11月7日 07:00
ルーマニア ブカレストより東へ50キロ、ヤロミツァ付近】


東欧バルカン半島の付け根にあるルーマニア地方。
ルーマニアの大都市・ブカレストから一路東、オデッサへと進軍する大戦車団があった。
その大集団の中に、一際大きな戦車が見える。

いや、戦車などというものではない。
その巨大さは、陸上戦艦とでも言った方が相応しいだろう。

この陸上戦艦は、ビッグ・トレー級大型陸戦艇、『バターン』。
地球連邦軍の総旗艦だった。


「我が軍の主力は、トランシルヴァニア山脈を超えず、これの南へと迂回し、平野部の
ブカレストからドナウ川を突破、オデッサ南西へと至るルートをとります」

「支援態勢も抜かりありません。
すでに第2航空軍がトランシルヴァニア山脈南端の敵陣地に空爆を敢行し、敵の
砲塁群の50%を破壊。
さらに陽動として、第17軍と第32軍の合わせて16万がカルパチア山脈の敵防衛線
を攻撃しています」

「しかし、敵もドナウ川周辺に強力な陣地を構築しているようです。
ここを突破するには、相当な敵の反撃と、味方の損害を覚悟せねばなりません」

「東部戦線では第3軍集団がセヴァストーポリを爆撃しつつあり。
これを本日中に攻略してみせるとのこと。
さらに・・・」


『バターン』内部の広大な作戦司令室。
居並ぶ参謀達からの報告にいちいち、ウン、ウン、と頷く白髪白髯の人物は、地球連邦
軍総司令官ヨハン・イブラヒム・レビル大将だった。


彼は面白くもなさそうな表情で一通り報告を聞き終わってから、参謀長を務めるエルラン
中将にぶっきらぼうに問いかけた。

「それでエルラン君。
第2軍集団のオーバーベイ中将は作戦に間に合うのだろうね?」


エルランは神経質そうな顔を歪めた。
不快なことがあるとそうなるというよりは、単にそれが癖であるらしい。

「いいえ閣下、残念ながら。
彼らはミンスクの南、プリピャチの大湿地帯に足をとられている筈です。
あの湿地帯の面積はグレート・ブリテン島に匹敵するほどですから、走破は容易では
ありません。
数日、ことによっては完全に作戦に間に合わぬ事も考えておかなければならないでしょう」


レビルは、わざと大仰に驚いてみせる。

「ほう、それは一大事だ!
例のコロニー落しによる異常気象のせいで冬が早く到来し、プリピャチの湿地帯は
凍結しているから走破は容易だ、と聞いていたのだが違ったのかね?」


「閣下、どこで誰から聞いたのかは存じませぬが、根拠薄弱な甘い観測に惑わされ
てはなりませんぞ。
例年より冬が早いからといって、11月になったばかりでは凍結はしますまい。
通常、プリピャチの湿地帯が凍結するのは12月に入ってからなのです。
私はかつて、キエフ駐留軍に居たことがあります。
その経験をご信用ください」


それこそ根拠薄弱極まりないのではないか、とレビルは思ったが、口には出さない。
だが、彼はこの件に関し、エルランの見解を信用しないことに決めた。




748 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:43


(08/51)

レビルは異端の将だった。

参謀連中からいくらでも質的、量的に優れた情報を得られる立場にいるにもかかわらず、
ときにそれを信用せず、前線の将兵の中にこれと見込んだ人物を見つけると、その人物
から最前線の生きた情報を得ることを好んだ。

更にはそれらの人物に、組織や指揮命令系統を無視して直接指示を下すことさえあった。

その最たる例が補給部隊の一将校に過ぎぬマチルダ・アジャン中尉を介し、ホワイトベース
隊の能力を測り、この隊に試作兵器を優先的に与えるなど、様々な試みをしたことだろう。


要するに、もっとも組織を重んじなければならない立場にいる筈の人間が、それをして
いなかったわけだ。

やはり異端の将というべき人物だった。


レビルはエルランの見解を信用せぬと決めた。
オーバーベイの第2軍集団は何とか戦闘に間に合うに違いない。
それはいい。

問題は、ならばいつ、第2軍集団が戦線に到着するのか?
ということであった。

レビル自身、これがどうにも分からない。
しかし、ジオンのマ・クベに時間を与えるわけには行かぬ。
である以上、今は前進するしかない。

そんな彼の複雑な感情が、この台詞になってあらわれたらしい。


「この戦いは奇妙だな、エルラン君」


例によってエルランが顔を歪める。

「後世の戦史研究家たちは、これを何と呼ぶだろうかね?
宇宙世紀のアウステルリッツか、日本海海戦か、それとも・・・」


一呼吸おいて、エルランに顔を向ける。
無愛想を絵に描いたような人物と言われるレビルの目に、この時は悪戯小僧のような
輝きがともっていた。


「・・・ワーテルロー会戦か」


ワーテルロー会戦。
それはかのナポレオン・ボナパルトが、惨めな敗北を強いられた戦いの名だった。

このときナポレオンは、貴重な別働兵力をド・グルーシー将軍に委ねた。
しかし、この別働隊は、ついに主力決戦に間に合わず、主人の窮地を救うどころか
何の役にも立たなかったのだ。




749 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:44


(09/51)

【同日 11:30
クリミア半島 セヴァストーポリ
ガイタヌイ 207高地】



「いいか、命令があるまで決して撃つなよ」

ヴィットマンは低声で部下に呼びかけた。
クルトがこの期に及んでなお、のんびりとした口調で応じる。

「別に大声を出したとしても、敵さんには聞こえやしませんよ、隊長」

「うるせえ!
お前はもう少し緊張感ってものを持て!」


確かにクルトの言うとおり、戦車の中で大声を張り上げたところで、敵に聞こえる
ものではないだろう。

だが、彼の目の前に展開している光景が声帯を萎縮させていた。
これで普段どおりの顔をしていられるクルトの方がよほど異常だ。


いま一人、マルコヴィッチはというと、声を出すどころか微動だに出来ずにいる。
声帯が萎縮するどころではないくらい緊張しているようだ。

それもそうだ。
この光景は経験の浅い若年兵にはきつい物があるだろうな。

ヴィットマンが注意深く前方を窺うと、蒙気の合間から、地を埋め尽くすかと思われ
るほどの連邦軍の大部隊が見えた。


先頭を61式戦車の集団が走り、それに自走砲や迫撃砲などの砲車、さらに歩兵
を満載した装甲車などが続いている。

この207高地――海抜207メートルの小山を多い尽くすほどの数だ。
堂々たる大機甲軍団の姿がそこにあった。

進撃してくる彼らに対し、ジオン軍からの反撃は無い。
いや、反撃を禁じられていた。


早朝より始まった連邦軍による徹底した空爆により、周囲の地形は原型を留めない
ほどに変わっている。

セヴァストーポリの全山は死んだように沈黙していた。
少なくとも、連邦軍の目からはそう見えただろう。

しかし、見た目ほどには、トーチカや砲台は損害を受けておらず、なお十分な反撃
能力を残していた。
これも起伏に富んだセヴァストーポリの特殊な地形と、事前の防御工事の賜物だ
ろう。


ヴィットマンらのマゼラアタックも、掘った穴と上に被せた援体のお陰で、あれだけ
の空爆を受けたにも関わらず無事でいられた。

実際、空爆の間は敵の爆弾がいつ命中するかという恐怖との戦いで、頭がおかしく
なるかと思ったが、ともかくも彼らはこうして無事に生き延び、連邦軍に対する報復
の機会を得たのだ。


ヴィットマンをはじめとして、ジオン軍は息を潜めて連邦軍の接近を待ち受けている。

彼らは敵を出来るだけ引き付けようとした。
引き付けに引き付けて、彼我の距離はいよいよ300メートルを切るに至った。


ついに、命令は下った。


「撃て!」

「一斉射撃!」

「砲撃開始!」


砲という砲が、山という山が、連邦軍を取り囲む風景の全てが火を吐き、死の暴風雨
を巻き起こした。

ジオン軍の銃砲弾は地をえぐり、連邦軍兵士をトラックごと吹き飛ばし、戦車や砲車を
叩きのめした。
激しい攻撃を受けた連邦軍は、つんのめるようにして前進を停止した。


ジオン軍は丘陵や遮蔽物に身を隠しつつの戦闘であったが、連邦軍にはそれが
無かった。
彼らには、連続して炸裂する砲弾の雨の中にただ無防備に立ち尽くす以外に術が
無く、当然、おびただしい被害を出した。

無論、この一連の現象は偶然の産物などではない。
ジオン軍がそういう地形を選んで反撃に出たからである。


「よーし、行くぞ!
全軍突撃!」

それまで身を隠していたモビルスーツ隊が稜線から一斉に飛び出す。
彼らはマシンガンやバズーカを乱射しつつ、斜面を駆け下りる。

すでに大損害を受け、組織的な抵抗力を喪失していた連邦軍は、草でも刈るように
薙ぎ倒されていった。

反撃開始からわずか30分。
一方的に打ちのめされた連邦軍はついに後退に転じた。


敵が潮のように引いてゆくのを見て、ジオン軍の通信回線は歓声で飽和状態になった。
兵たちは腹から雄叫びをあげる。

しかし、ヴィットマンは知っていた。
今回の反撃を見て、連邦軍はジオン軍の正確な砲兵力の配置を把握したことだろう。

彼らは態勢を立て直し、今度はさらに正確な準備砲撃と空爆をジオン軍陣地に加えて
から攻撃をかけてくるに違いない。

そうなったとき、自分達はどれだけ持ちこたえられるのか。


戦いはまだ始まったばかりだった。




750 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:50


(10/51)

【同日 16:50
ブカレストより東へ120キロ、ハルソヴァ付近】

「セヴァストーポリで敵の反撃が活発化しています。
事前の準備爆撃が不十分だったようです」

「何を今更!
奴ら、今日中にセヴァストーポリを陥とすと豪語したのを忘れたのか!」

「第14師団司令部との連絡がとれん!
どうなっているのか!」

「第6軍より援軍の要請です!
スリナ川の北岸に敵モビルスーツの大部隊が出現した模様!」


『バターン』の司令室は参謀達がヒステリックなダンスを踊る場と堕している。

連邦軍は各所で攻勢に出たが、その攻勢は全ての戦線で弾き返された。
戦線によってはジオン軍の逆襲を受けて壊走する部隊さえあった。

しかしレビルは、予想外の味方の苦戦に驚くよりも先に、妙な違和感を覚えていた。


「ジオンの兵力配置は随分と的確なようだな。
いや、あまりにも的確すぎる」

特に敵の西部戦線の厚みはどうだ。
とても、連邦軍の四分の一の兵力しか持たぬ軍とは思えない。


100万程度と見積もっていたジオン軍の兵力が、実は200万を超えていたのか?

それもおかしい。
それでは地球に降下したジオンの物資運搬船・HLVとの数が合わない。

あるいは、マ・クベは他の戦線を放棄し、全ての兵力を西部戦線へ結集したとでも
いうのか?
あの万事慎重なマ・クベがそのような博打を打つなぞ、考えられない事ではあるが。


・・・だが。
そうなのだ。
それ以外にはありえない。

マ・クベは博打を打った。
そして、あの男は勝てる博打しかやらない男だ。


ならば、こちらの兵力配置や、オーバーベイの第2軍集団の進軍遅れなど、全ての
情報が敵に筒抜けになっているということではないか!


苦虫を噛み潰したレビルに向かって、エルランが一歩進み出た。

「敵の反撃は予想以上ですな。
このまま放置すれば、我が軍の戦線は崩壊しかねません。
ここは温存してある予備兵力を投入し、前線を押し戻すべきです」


参謀連中があれだけ慌てに慌てている中で、この男だけが場違いなくらいに冷静だ。
これほど胆の据わった男だったという記憶は、レビルには無いのだが。


エルランが手元の操作盤を動かすと、司令室中央の巨大な作戦図に、一本の矢印が
描かれた。


「敵の主力はドナウ川沿いに、イズマイルからヴィルコフのラインに展開しています。
それに比べ、西のガラツィはやや手薄なようです。
予備軍をガラツィに投入し、これを突破、一気にプルート川を渡り、ドナウの敵軍を
包囲してしまいましょう」



751 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:51


(11/51)

エルランの提言そのものは的確だ。
戦術の教科書の回答のように。


しかし、今問題なのは局地的な戦術の妙を敵と競うことではないのではないか。
彼の提言は根本的なところでずれている。

その思いがレビルの口調を皮肉っぽくする。


「予備兵力。
ろくな訓練も済ませておらぬモビルスーツ大隊や、戦意に乏しく装備も古い老兵師団
を投入しろというのかね?」


ふう、と大きく溜息をつく。

「我が軍が、兵力で敵を圧倒しているとは言っても、内情はかくのごとし、だ。
つまるところ、我が軍の優勢とはその程度のものなのだよ。
だが・・・」

出さぬわけにもいくまい。
出さねば前線で苦闘中の諸部隊は崩れたち、戦線は崩壊するだろう。


ジオンにはこちらの動きを察知する術があるようだが、それでも兵力だけは大きい我が方
の予備軍がガラツィへ大挙進軍すれば、彼らもそちらへの手当てを厚くせざるを得まい。

結果的に、苦戦中の他の部隊へのジオンの圧力は弱まる。
彼らが態勢を立て直し、組織的な戦闘力を回復させるのに必要な時間を稼ぐ事ができる
だろう。


「閣下、予備軍の指揮を、是非私にお命じ下さい。
私はかねてよりオデッサ作戦を研究し、ガラツィの突破に関しての明確なプランもあります。
必ずや、プルート川を渡り、味方との挟撃態勢を築き上げ、敵を殲滅してご覧にいれます」


このとき、レビルが感じていた違和感は最高潮に達したといっていい。
エルランのこの浮かれようはどうだ。
そもそも、彼はこれほど積極的に前線に出たがるタイプの軍人だったであろうか。


思えば、この戦いははじめから奇妙だった。
今もそうだ。
奇妙でありすぎる。


だから、彼はこう言った。
それについて、奇妙すぎるという以上の理由はない。
ほとんど直感に近かったが、何故か確信の持てる直感であった。


「いや、予備軍の指揮はチモシェンコ将軍に執らせよう。
彼は長くこの地域に勤務した経験があり、土地勘もある。
それに多少の困難にあっても動じぬ猛将だ」


そして付け加えた。

「エルラン君、私は君の識見を買っているのだよ。
だから、君には私の傍を離れてもらっては困るな」


エルランは明らかに狼狽の表情を浮かべた。

それは、味方がどれほどの苦境にあろうとも顔色一つ変えなかった彼が、この戦闘で
初めて見せた表情だった。


そしてレビルは、それを見逃すような男ではなかったのだ。




752 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:56


(12/51)

【同日 18:40
オデッサ鉱山基地 地下司令室】

連邦軍が温存していた予備軍を動かした、との報は、すぐにマ・クベにもたらされた。
ただ、それまでならば、どの部隊がいつ、どこに向かって動くかの詳細な情報が来たの
だが、今回の情報はやや具体性を欠いている。


「なに、問題はない。
敵が予備軍の全てをガラツィへ向けて動かした。
レビル本隊の周りには予備軍が居なくなり、彼らの防備は手薄になった。
それで十分ではないか。
エルランは良くやっている」


マ・クベは最愛の我が子のようにして白磁の壷を抱いている。
軍服姿の中年男が、一日中美術品と戯れているというのは異様な光景である筈だが、
ウラガンはもう慣れきってしまっている。


「ガラツィに敵の総予備隊が進軍、ですか。
ここは我が軍の防衛線の中でも、最も強固な部分の一つです。
敵がいかに大軍とはいえ、ガラツィを抜けるのは容易ではないでしょう」


「その通りだよ、ウラガン。
さて、私としてはこの状況を最大限に利用したいと思っているのだが。
我が方の予備軍の状況はどうか」


壷を抱きながら、目線だけをウラガンに向ける。
その眼光は、いつにもまして鋭い。

ついにこの時が来た。
ウラガンはそれを感じ、直立不動の姿勢をとる。


「はっ!
すでに空挺第1旅団の出撃準備が整っております。
さらにハルダー閣下麾下の、第2軍、第8軍、第11軍も出撃可能です」


「よろしい。
総予備軍はただちに出撃。
目標はコンスタンツァより北方60キロ、トポログ付近。
他には一切目をくれず、レビルの本営に対し、総攻撃をかけるのだ」

マ・クベは、椅子から立ち上がって続けた。


「そしてハルダーの軍に伝えよ。
公国の興廃、この一戦にあり。
諸君らのより一層の奮戦に期待する、とな」


芝居がかった台詞だ。
たが、存在自体が芝居がかったこの男には、かえって似合う台詞だった。


マ・クベという男の人生劇場は絶頂を迎えつつあった。




753 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:57

(13/51)

【11月8日 6:40
トゥルチェア上空】


空を覆いつくすほどの大航空団が一路、南を目指して進軍する。
だが、先頭に立つ機体は、航空機としては異様な形状をしている。

いや、それは航空機ではない。
翼を持たず、人の形をしたそれは、重爆撃機・ドダイYSの背に立った
『MS−07 グフ』だった。


さらに、30組ほどのドダイとグフの周囲を、無数の戦闘機・『ドップ』が飛行し、この
大航空団の先陣を形成していた。

本隊として、彼らのあとに続くのは、『ガウ攻撃空母』の大編隊だ。
その数、24機。
無論、ガウの周辺にも、護衛役のドップが舞っている。


レビルを倒す、ただその目的の為だけに特別編成された部隊に、マ・クベは保有する
全てのガウを集中させた。
この事実一つをとっても、彼がこの攻撃に全てを賭けていたのが分かる。


空挺第1旅団。
この部隊は組織上”旅団”として扱われてはいたものの、戦力は巨大であった。
所属する兵士の人数は一個師団に迫り、モビルスーツの数に至っては一個軍に匹敵した。

ましてこの旅団には、他の師団にも軍にも無い、圧倒的な機動力がある。
この強力無比な集団の指揮官が、フランツ・マッケンゼン大佐だった。


本来、これほどの集団であれば、将官クラスが指揮すべきであったが、マ・クベは
作戦の成否の鍵を握る部隊の指揮官を選定するに当たり、階級よりも能力を重んじた。


マッケンゼンは、ドダイとグフの合体戦法の考案者と言われ、モビルスーツの行動範囲を
飛躍的に伸ばすことに成功し、数々の武勲を立てた。

武勲の巨大さと、電撃的な強襲を得意としたことから、『韋駄天フランツ』と渾名され、
敵味方から畏敬を集める存在だったのだ。

彼が指揮官に選ばれたのも、苦し紛れながら、これほどの部隊が旅団として扱われた
のも、このような事情があってのものだ。


さらに、空挺第1旅団と同時に大地を轟かせつつ進軍を開始したのが、この攻撃の為に
虎の子のように温存されていた、第2、第8、第11の三個軍からなる、ハルダー中将を
司令官とする軍集団だった。

このハルダー軍集団の兵力は21万。

モビルスーツ300機、火砲1100門、他に戦車や装甲車などの多数の戦闘車両を
従えた、オデッサ守備軍中最強の精鋭部隊であった。

この軍団が連邦軍の前衛部隊を粉砕し、進軍する中、マッケンゼンの空挺第1旅団は
一気にそれを飛び越え、レビルの本営を直撃した。



今まさに、『韋駄天フランツ』の本領が発揮されようとしていた。




754 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:58


(14/51)


「全機、攻撃を開始せよ!」


ドダイ上のマッケンゼンは、愛機の右腕を前方に突き出した。
それを合図に、ドップ隊とグフ隊の半数が急降下し、レビルの本隊に襲い掛かる。
また、彼自身の率いる残り半数が、上空の連邦軍航空隊へと突入した。

彼の狙いの第一は、連邦軍の対空火器と戦闘機隊を叩き潰し、後続するガウ部隊
によるモビルスーツ降下を容易にすることにあった。


彼の視界に連邦軍の戦闘爆撃機・『フライマンタ』の大群が映る。
そしてそれは一瞬ごとに急拡大し、ついにモニターを塞ぐほどの大きさになった。


「邪魔だ、連邦の七面鳥めが!」

マッケンゼンはグフのヒートロッドを一閃させ、フライマンタを撃破する。

ヒートロッドを避けた何機かは難を逃れたように見えたが、それも一瞬の事だった。
彼らはグフの指に内蔵された75ミリバルカンの掃射を受け、瞬く間に撃墜された。


彼に続くグフ部隊も次々とフライマンタを撃破する。
しかし、連邦軍とてやられっ放しではない。


ドダイはもともと重爆撃機だ。
エンジンのパワーが大きいからスピードは出るが、図体が大きく、小回りは利かない。
まして、グフを載せてしまっては、敏捷な戦闘機を相手に旋回戦闘など出来るはずもない。


「ジオンめ、調子に乗りやがって!」

フライマンタは身軽に機首を翻し、ドダイの後背に食らい付く。
そして主翼に収められたバルカン砲を浴びせかけた。


グフは盾を差し伸べ、ドダイのエンジン部を保護した。
フライマンタの銃弾は、グフに命中したが、それらは分厚い装甲に弾き返されてしまう。
また、グフの盾に守られたドダイも無傷だった。


「ドダイさまの尻に手を出そうとは太え野郎だ。
ご婦人にちょっかいを出した罰をくれてやる!」


グフからバルカンの一斉射という褒美を与えられ、フライマンタの機体は四散した。
ドダイとグフは動きでは戦闘機に及ばなかったが、連邦軍のパイロットに対しては、
さながら空の要塞とでも言うべき攻撃力と防御力を見せ付けたのだ。


「下だ、下から狙え!」

モビルスーツを相手にしてはどうにもならないと悟った連邦軍の編隊が急降下し、
ドダイの下に回りこむ。

そして一気に急上昇し、ドダイの無防備な機体下部から攻撃を掛けようとした。


だが、護衛のドップ隊とて、それを黙って見過ごす筈が無い。
ドップの突出した操縦席の視界の良さも、それを助けた。


「やらせるものかよ!」


ドップ隊は逆落としにフライマンタ隊へと襲い掛かる。
戦闘機同士の空戦では、上を取った方が圧倒的に有利だ。

フライマンタ隊は驟雨のような銃弾を浴びて、次々と撃ち落されていく。

しかし、それを掻い潜った数機がドダイに到達した。
彼らは空対空ミサイルをドダイに叩き込んだ。


「くっそ、やりやがったな!」

爆発するドダイから飛び降りたグフのパイロットが虚しく叫ぶ。
もはや彼には地上に降りるより他に術が無い。

彼は、レビルの大軍団のまっただ中に降下して戦わねばならないだろう。



新たな敵機をヒートロッドで撃破し、自身の撃墜スコアを更新したマッケンゼンが
背後を振り返ると、空には敵味方の砲火で黒い雲が出来上がりつつあった。

しかし、その雲から、黒煙を吐きつつ糸を引くようにして墜落していくのは、連邦の
戦闘機ばかりだ。

先ほどのドダイを撃破されたグフのように、いくつかの例外はあるにしても、味方が
この空戦で押しているのは明らかだ。
地上でもジオン軍の急襲を受けた連邦軍は混乱し、反撃は散発的だ。


マッケンゼンは通信機を操作し、後続するガウ部隊への作戦決行を指示した。

露払いは済んだ。
戦いはこれからが本番だ。

そう思いながらも、彼は作戦の成功を確信していた。



755 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/11(Mon) 23:59


(15/51)

【同日 7:10
トポログ付近】

上空にガウが、航空機としては規格外の巨体をあらわす。
その威容は、かつて太古の空を支配した翼竜を彷彿とさせる。

しかも数が多い。
彼らのために空が暗くなるのではと思われるほどだ。


ジオンの大部隊が迫る様を、ビッグ・トレーから目にしたレビルは呟いた。


「一挙に戦局を覆すべく、乾坤一擲の攻勢に出るか。
敵ながら見事だ」

彼にとっても、ここが正念場だった。



ガウの腹が開き、中に搭載されたモビルスーツが姿を現す。

視界が開け、モビルスーツパイロットの目に、地上の激戦の様相が飛び込んで来た。
敵味方が泥まみれになって殺しあう、凄惨という以外に形容のしようがない光景だ。


あるものは口中が干上がり、またあるものは操縦桿を握る手を震わせる。
彼らの目を釘付けにしたのは、連邦軍の中央に屹立する、巨大なシルエットだ。

それこそレビルの座上艦、ビッグ・トレー級『バターン』だった。


「でけえ!」

「あれが大皿野郎か!」

「ひるむな!
レビルを殺れ!」

「全機降下せよ!」

「いくぞ!」

先頭のザクが空中に飛び出す。
続いて、二番機、三番機とテンポよく飛び出してゆく。


彼らに躊躇している暇はない。
兵士の心情というのは不思議なものだ。

死が大量生産されている戦場に飛び出すのは無論、覚悟が要る事だったが、ここで
怖気づいてガウの中に取り残される方が、仲間に置いていかれるようでよほど怖ろしい。

そう感じてしまう。

ならば思い切って飛び出すことだ。
飛び出した先に待っているのが生か死か、そんなものは分かりはしない。

だがやるしかない。
戦って、戦って、敵を倒すのだ。


彼らは一人一人が戦鬼となって、レビルの本営に殺到していった。




756 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:01


(16/51)


『バターン』の両舷に搭載された巨大な三連装砲が火を吹く。


砲弾は雲霞の如く降下するジオンのモビルスーツ隊に命中する事無く、彼らの手前で
炸裂する。

だが、これは対空散弾だった。
炸裂した砲弾からは無数の破片がばら撒かれ、数機のモビルスーツに致命傷を与える。


「か、かあさん・・・」

破片の直撃をコクピットに受けた若いパイロットは、腹部から飛び出した血まみれの
内臓を押さえながら呻いた。

しかし、彼の苦痛は長くは続かなかった。
彼と同じく、腹部を損傷したザクは短い痙攣ののち、爆発した。


ガウから降下したジオンのモビルスーツ隊は、降下中を狙われて損害を出したが、
比較的それが軽微で済んだのは、マッケンゼン隊の掩護攻撃が有効だったからだ。

『バターン』は戦場全体の連邦軍を指揮するよりも、まずは己を守るべく奮戦しなければ
ならなかった。


「敵モビルスーツ、一時方向に12機降下!」

「左舷より8機接近中!」

「迎撃だ!
こちらもモビルスーツを出せ」


『バターン』の背に連邦軍のモビルスーツ、『RGM−79 ジム』が姿を現す。 

彼らの半数は『バターン』の背に残って砲台となり、残りの半数は背から飛び降りて
敵モビルスーツに向かって走る。
さらに周囲に続いていた大型トレーラーからも続々とジムが起動し、出撃した。


落下傘を切り離したザクが、マシンガンを連射しつつ地上に着地する。

彼は弾槽を空にするまで射撃を止めない。
無論それは、後続する味方機の降下を掩護する為だ。


ザクのマシンガンに撃ちすくめられたジム隊は、身をかがめつつ反撃を試みる。
ジムが装備する小銃型の携帯火器からビームが迸った。


「ビーム砲だと!?」

当りはしなかったが、その閃光にザクのパイロットは驚きの声を上げる。
彼は多くのジオン兵がそうであるように、モビルスーツがビームを発射する場面を
見た事が無かった。

しかし、彼はひるまない。


「素人のくせに、危ないオモチャをつかってんじゃねえ!」

彼はたった一機でジム隊の前に立ちはだかり、マシンガンの銃身が焼きつくまで
撃ち続け、二機のジムを撃破した。


「チ、チャーリー、トニー!
こいつ、やりやがったな!」

ジムのパイロットの多くは、今回が初めての実戦だった。

彼らは、つい先ほどまで不安と恐怖に脅えていたのだが、僚機の爆発を目にし、
その恐怖は頂点に達した。


だから、その恐怖から逃れる為に必死にトリガーを引く。
それが彼らを死から救い出す、唯一の途だと信じて。

残弾数や、周囲の敵味方の配置に気を配る余裕なぞありはしない。

そしてついに、ジムのスプレーガンから放たれたビームが、ザクの腹を撃ち抜く。
ビームの超高熱は、操縦席のパイロットを一瞬で蒸発させ、主人を喪ったザクは
力なく大地に崩れ落ちた。


だが、ザクを倒したジムのパイロットは、初めての戦果を喜べなかった。
彼は戦死したザクのパイロットより、数秒しか長生きできなかったからだ。


彼は遅れて降下してきた他のザクから、憎悪のこもった反撃を受け、自身の身体
ごと乗機を蜂の巣にされた。




757 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:02


(17/51)

【同日 9:10】


レビルの本隊に襲い掛かったマッケンゼンの空挺第1旅団のモビルスーツは99機を
数えた。
ドダイに乗ったグフが27機に、ガウに搭載されたザクが72機である。


これは強力無比な戦闘集団ではあったが、これでもレビルの本隊を破るには不足だ。
また、銃砲弾や燃料の補充など、補給の問題もある。


彼らの役割は連邦軍の本営に殴り込み、その陣形を突き崩し、楔になることにあった。
そして、乱れた敵を叩き潰すのは、彼らに続いて進軍するハルダー軍集団の仕事だ。


そして、この時刻。
ついに北から、ハルダー軍集団が戦線に到着した。


砂煙を巻き起げながら先頭を走るモビルスーツは、ザクを二周りほど重厚にしたフォルム
を持っていた。

にもかかわらず、疾い。
ザクやグフには決して出せないスピードで、連邦軍のモビルスーツ隊に突進する。

巨大なスカートからジェットの噴流を吐き出し、ホバーで疾走する『MS-09 ドム』は、
手にしたジャイアント・バズーカから360ミリロケット弾を放った。


ジムは間一髪、盾でそれを防いだが、ロケット弾の爆発は盾ごとジムの左腕を持っていく。
左腕を失ったジムは、二番目に現れたドムのヒートサーベルで、胴を上下に分断された。

ジムの上半身と下半身はそれぞれ別方向に飛んで爆発し、そのあおりを受けたジム隊は
隊形を崩す。

そこへ三機目のドムが飛び込み、外しようのない近距離からジャイアント・バズを連射し、
瞬く間に二機を吹き飛ばした。


ジェット・ストリーム・アタック。

エミリア・ライヒ大尉が指揮するドム小隊は、黒い三連星と呼ばれたエース達と
ともに、ドムの慣熟訓練を受けたほどの腕利き揃いだった。

彼らもまた、ハルダー軍集団が精鋭と言われる理由を体現する連中だった。



「第9師団が来たか!
多少予定時刻を過ぎているようだが、まあ良しとしよう」

その光景を、ドダイの機上から目にしたマッケンゼンは頬を緩めた。
彼の部隊は連邦軍をさんざんに傷めつけたが、致命傷を与えるまでには至っていない。


なんといっても敵の数が多い。
一機のモビルスーツが撃破されても、すぐに別の一機が取って代わって反撃してくる。

さらに、他の戦線の攻撃に参加していた部隊が、本隊の危機に反転して来つつあった。


マッケンゼンでさえ、倒しても倒しても尽きる事無く現れる連邦軍に、いささか食傷にも
似た感覚を覚えていたところだ。

だから、このハルダー軍集団の到着は心底有り難い。



一方、連邦軍も必死だ。

彼らはマッケンゼンが持て余すほど、次々と戦場に現れた。
言い換えれば、連邦軍は戦力の逐次投入という愚を犯した事になる。

しかし、この期に及んでそんな事は言っていられない。

他の場所から来援した部隊を、即座に防衛に投入しなければ、彼らの戦線はとっくに
崩壊していただろう。


今の彼らにできるのは、ただ後退せず、その場に踏み止まる、という事だけだ。
ジオンの新手が戦線に現れたようだが、こちらも味方の更なる来援を待つしかない。


後に『トポログの激戦』と呼ばれるようになる戦いは、いよいよ佳境を迎えつつある。




758 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:03


(18/51)

ジオン軍も、連邦軍も、戦場に到着した部隊はレビルの本営を目指した。

彼らは急速に接近すると、互いに遮蔽物も無いまま、至近距離での銃撃戦を展開する。


やがて『バターン』の周囲に敵味方のモビルスーツが集まり、飽和状態になると、
ザクはヒートホークを、ジムはビームサーベルを手に肉弾戦を始めた。


そしてサーベルやマシンガンなど手持ちの武器を使い果たしてしまうと、ついには
盾で相手を殴りつけ、肩から体当たりを食らわせたりした。


進化を続けた人類は、ついに自らの形を模した高性能の兵器を持つに至ったが、その
兵器が演じる戦いはサイズを数倍にしただけで、数千年前の人類がやっていたものと
何ら変わるところがなかった。


要するに、人間の本質は数千年前から何も変わってはいないのだ。
絶望的なくらいに。

ジオン・ズム・ダイクンが、人類の革新なぞという夢物語を唱えたくなるのも無理はない。


そんなことを思いながら、レビルは戦況を眺めている。

こういう状況になってしまうと、総司令官である彼には仕事が無くなってしまう。

まさか彼が、一機のジムに直接、ああしろ、こうしろと指示を出すわけにもいかない。
彼に指示を出すべき直属の指揮官がいるし、更に上には上級司令部がある。

総司令官が口を出すべきものではない。
あとは各級の指揮官や艦長に任せるしかないのだ。


彼と同じように司令部に居ながら何もしていない人物が一人いる。
参謀長のエルランだ。


彼にとって、このジオン軍の大攻撃は予定通りだった。
当然だ、彼がマ・クベに情報を流し、攻勢を呼び込んだのだから。

しかし、予定外だったのは、自分が未だにこの『バターン』に留まり、レビルの横に
居る事だった。

彼の”予定”によれば、とっくに『バターン』を抜け出し、マ・クベの元に駆け込んでいる
筈だったのだ。


自分はここで死ぬのか。
レビルと共に。

レビルとはまた違った意味で、ただ椅子に座っているだけの彼のうつろな目に、一片の
情報が飛び込んできた。

エルランは顔を歪めた。

自分にとって、それが吉報なのか凶報なのか、にわかに判断がつかなかったからだ。




759 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:04


(19/51)

【同日 10:50】


「第2軍集団がヴィンニツァを突破!
バルタとペルウォマイスクの敵陣に対し、攻撃を敢行しつつあり!」

「さらに一部の部隊はキシニョフを攻撃中!」

「やった!
オーバーベイが間に合ったぞ!」


『バターン』の司令部は歓声に包まれる。

例外だったのは蝋人形のように蒼白な顔をしたエルランと、不機嫌そうに憮然とした
ままのレビルだった。


連邦軍第2軍集団は戦闘に間に合った。
彼らはモスクワを出撃し、プリピャチの湿地帯を抜け、オデッサの北部戦線に雪崩れ
込んだ。


マ・クベは兵力の殆どを西部戦線に集中していた為、ここを守備するジオン軍は数万に
過ぎず、120万を算する連邦軍は、紙でも突き破るような容易さで北部戦線を突破して
しまったのだ。


中でも航空機と軽戦車や装甲車を中心に編成された快速師団は、わずか数時間で
ヴィンニツァからキシニョフまでの200キロを踏破してしまった。

そしてキシニョフを奪われると言う事は、西部戦線に展開したジオン軍部隊にとって、
退路を絶たれることを意味した。

特にレビルの本営を攻撃に出たハルダーの三個軍は、連邦軍の重囲に陥るだろう。



レビルは一通り参謀から報告を受けると、彼らにいくつか簡潔な指示を出した。

そして、自分のシートにうずくまったままのエルランに聞かせるつもりがあるのかない
のか、視線を前に向けたまま話し始める。


「エルラン君。
君の分析によれば、オーバーベイ中将の第2軍集団は作戦に間に合わぬはずだった。
そうだな?」


エルランは何も答えない。


「本来、第2軍集団はプリピャチの泥濘に足を取られて苦しむはずだった。
ところが、コロニー落としによる異常気象のせいで、例年よりはるかに早くプリピャチの
湿地帯は凍結してしまった。
第2軍集団は、遮る物の無い平原を往くがごとく、易々と彼の地を突破したというわけだ。
マ・クベにとって、これは大変な誤算だったろう。
そして・・・」


レビルはエルランの生気のない顔に鋭い視線を向けた。


「君にとってもな」


ここではじめてエルランは顔を上げた。

もし、『驚愕』というタイトルの絵画が存在しているのなら、こういう顔を描いた絵であろうと
思われた。




760 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:05


(20/51)

一呼吸おいて、レビルは続ける。


「しかし、とんだお笑い種だとは思わんかね?
よりによってアースノイドが、地球の気候変動を読みきれなかったなどと。
そのようなアース・ノイドを信用したマ・クベという男も不幸としか言い様がないな」


「そ、それは誤解だ!
私はなにも・・・」


立ち上がって叫んだエルランに、銃を手にした一群の衛兵が駆け寄り、取り囲む。


「ジャブロー戦の頃からおかしいとは思っていた。
機密の漏えいが甚だしい」


レビルは席から立ち上がる。


「一応、疑ってはみていた。
軍の高官が敵と内通してはいないか、と。
何故なら、ジオンの読みはあまりにも的確であり、異常でさえあったからだ。
情報の出所は、彼らにとってよほど信頼の置ける人物からのものだったという事が
想像できた」


そのままエルランに歩み寄る。


「そして彼らは、第2軍集団が戦場に間に合わぬという誤った情報をも信じてしまった。
ここまで来れば、私にも犯人が誰だか想像はつく。
もともとマークしていた人物の中から、第2軍集団が間に合わぬと主張していた人物を
思い出せば良いだけのことだ」


そして歩を止め、うろたえるエルランを真直ぐ見据えた。


「まさか、な。
君だったとは、エルラン君」


レビルの声はどこまでも静かだった。

衛兵に取り囲まれたエルランは、死刑宣告を受けた被告さながらに肩を落とした。
彼は衛兵に促され、無言で退廷した。



司令室から退室したエルランを見送ったレビルは不機嫌だった。
それはエルランが裏切ったからではなく、別の理由によるものだ。


今回、エルランが「第2軍集団は間に合わぬ」と思い込んだのは、ひとえに彼が
前線の事情に無知であるためだった。

あるいは、前線から的確な情報が届けられても、それが自分の固定観念と相反
するものであれば見向きもしないという、およそ参謀にあるまじき視野の狭さと、
硬直しきった精神によるものだった。


そういう参謀が彼だけならばまだ良い。

しかしレビルの見るところ、彼のような参謀は決して少なくなかった。
それこそ大きな問題と言うべきであり、彼にとって頭痛の種なのだ。


現場を知らず、知ろうともせず、机上の空論を弄ぶしか能のない連中のおかげで、
この戦争は思わぬ苦戦を強いられている。

一週間戦争がそうだった。
そしてあのルウムも。

あの戦いで一体どれだけの人間が命を落としたか!


この連中は、未だにそれが分かっていないらしい。
そして、エルランがそういう連邦軍の無能を体現した人物だったが為に、自分は救われ
たのだ。


歴史上、味方の無能に苦しめらた人物は多くいるだろう。
しかし、味方の無能に救われた人物が、果たしてどれだけいるのか?


これほど滑稽な事は、そうは無いに違いあるまい。
レビルは、深刻な怒りが自らの体内を満たすのを自覚せずにはいられない。


今回が最後のチャンスのつもりで彼ら参謀達の奮起を期待したのだが、やはり無駄
だったようだ。
この戦いが終わったら、参謀チームの総入れ替えを断行せねばならんだろう。


彼がそう思う間にも、トポログの戦いは、終幕を迎えようとしていた。




761 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:06


(21/51)

【同日 11:20
オデッサ鉱山基地 地下司令室】


「なんだと!
それはどういうことだ!」


マ・クベは椅子から立ち上がり、拳を机に叩きつける。
彼は罪の無い机を殴りつけた手を、まるで親の仇でもあるかのように睨み続けた。


何故このような事になったのか?
これから味方にどのような指示を出せば良いのか?


彼の頭脳は高速で回転するが、それも空回りしてしまい、容易に答えは出ない。

冷静な彼らしくもなく、焦るあまりに複数の課題を順番に処理しようとせず、それらを
同時に考えようとして、かえって思考が支離滅裂になったせいだった。


震える手でハンカチを掴み、額の汗を拭うとようやく落ち着いたのか、彼なりの回答を
見つけ出した。

そしてその回答は、彼を焦慮の谷底から、一挙に激昂の頂へと噴出させるのに十分
なものだった。


「レビルめ、謀ったな!」


マ・クベの想像はこうだ。

レビルはエルランがジオンのスパイであることを早くから見抜いていた。
そしてエルランに、第2軍集団は戦いに間に合わぬという偽情報を吹き込み、
ジオン軍を誤断の底なし沼に突き落としたのに違いない。


しかし、それはレビルに対する過大評価というものだ。
真実はそのようなものではなく、単にエルランの見通しが甘かっただけのことだ。


レビルは積極的にマ・クベを騙そうとしたわけではなかったから、本来、彼から非難
されるべき謂れはない。

が、過去、戦争というものの多くが、互いの騙し合いの側面を持ち、また、一方の
誤解が、他方の誤解を拡大再生産させる性質のものである事を思えば、それは
ごくありふれた光景であるに過ぎない。


ともあれ、彼は当面の選択を迫られてる。

それも早急にだ。
こうしている間にも、守備隊が皆無に等しい北部戦線は大崩壊を起こしているだろう。

特に問題なのは、レビルの本営に突入した空挺第1旅団と、ハルダーの軍集団だ。

彼らは補給線を断たれた。
このままではいずれ手持ちの武器を使い果たし、全滅するに違いない。


「司令」


ウラガンが決断を促す。


マ・クベにもウラガンの言わんとするところは分かっている。

だが、ここで退却すれば、ジオン軍は再攻勢の機会を永遠に失い、あとは防戦
一方となるだろう。

そしてこの兵力差では、その防戦もいつまで続けられるか分からない。
つまりは、この戦いの敗北が確定してしまうのだ。


「ハルダーに攻撃を続行させて、我が軍が勝利できる可能性は?
例え残りの弾薬が少なくとも、このまま前進すれば、レビルを討ち取ることは可能
なのではないか?」


「可能性がゼロだとは申しませんが、それより早く、このオデッサが陥落するのは
確実です。
それでは・・・」


マ・クベは瞑目し、副官の語を継ぐ。


「・・・それでは、よしんばレビルだけは討てたとしても、オデッサを失ったあげく、
敵中に取り残された100万の味方は帰る家を失い、残らず全滅するに違いない、
か。
確かにその通りだな」


ならば、彼らに退却を命令した方が良い。

最終的に、単なる後退を意味する退却から、オデッサの放棄を意味する撤退へと
命令を変更せざるを得なくなるに違いないとしても。


それでも、敵の進撃を拒止する間に、味方の何割かは、他の地域や宇宙へ
脱出できるだろう。


マ・クベは大きく息を吐いた。

彼の体内に充満していた後悔の念や、エルランへの恨み節、策を弄した――
と彼は信じた――レビルへの憤りをも吐き出すかのように。


そして、もう一度背筋を伸ばす。


「これより後退戦を戦う。
ハルダーに退却命令を出せ。
西部戦線の諸部隊はこれを掩護せよ。
また、基地に残置してある兵は、一人残らず北部戦線へ移動させよ。
少しでも多く時間を稼ぐのだ」


マ・クべは明瞭な声で命じた。
彼の表情からは苦悩が消えていた。




762 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:08


(22/51)

【同日 11:50
トポログ付近】


地を圧しつつ61式戦車の大部隊が進む。
彼らは150ミリ連装砲をつるべ撃ちにし、ジオン軍に砲弾の雨を降らせた。


だが、ジオン軍の反撃も激しい。

ザクが、グフが、戦車砲弾で傷つきながらもマシンガンやバズーカで応戦する。
61式戦車はたちまちのうちに撃破されてゆく。


空から連邦軍の重爆撃機、デプ・ロックの編隊が急降下する。

投下された爆弾が、ジオンのモビルスーツ隊の周囲に次々と着弾し、その直撃を
受けたザクが吹き飛ぶ。


投弾を終えたデプ・ロックは上昇に転じようとしてスピードを落としたが、その瞬間を
狙っていたドップ隊に襲われ、多くが撃墜された。


しかし、ドップ隊に戦果を誇る暇は無い。

ジムが、低空に降りた彼らにビームスプレーガンを射掛けてきたからだ。
ドップは散開するが、それでも二機がビームに捉えられて四散する。


そのジムの脇を猛然とすり抜け、ドムが背後に回りこんだ。

ドムのモノアイが獲物を見据えて光る。
バズーカの直撃を背中に受けたジムは、腰をへし折られるようにして爆発した。


「きりが無いですな、連邦のウジムシ野郎は。
いくらでも湧いて出てくる」


ダン・ヒックス少尉が毒づいた。


「こいつら、数が多いのだけが取り柄だからな。
で、どうするんです、隊長。
本当に退くんですか」


デプ・ロックを狙撃しながらニコライ・カラマーゾフ少尉が尋ねる。


隊長機らしきドムが、十字型モノアイ・スリットの端にカメラを寄せて、僚機に答える。

凛としたその声は高い。
声の主は、エミリア・ライヒ大尉だ。


「この混戦の中、退却しろと言われてもな。
マ・クベの奴、随分と簡単に言ってくれるものだ」


彼女はジオン軍女性パイロットの撃墜ランキングで、海兵隊のシーマ・ガラハウ中佐に
次ぐほどの技倆の持ち主だった。

だが、それほどの腕を持ちながらも、自身のスコアよりも部隊の勝利を優先する有能な
指揮官としても知られた人物だ。

今も激戦の渦中にありながら、冷静に状況というものを把握していた。


「だが、キシニョフが陥ちたとなれば、そうも言ってはいられない。
やがて連邦のやつらは、オデッサへと雪崩れ込むだろう。
北部戦線には、それを防ぐべきまともな戦力が無いのだからな。
私達は退路を断たれ、北と南から挟み撃ちに合うというわけだ」


「ぞっとしない未来図ですな、そいつは」


「しかし、退くも地獄のような気がしますがね」


「その通り、退くも地獄だろうな。
けど、さしあたって私達は今を生き延びなければならない。
だから、今は退くことさ。
本隊に置き去りにされてはかなわないだろう?」


エミリアのドム小隊はバズーカを撃ち放ちつつ後退した。
それに生き残りのザクやグフが続く。



無論、退却を始めたのは彼らだけではない。
ハルダー軍集団全体が後退を始めた。


戦闘開始以来、彼らの奮戦は目覚ましいものがあったが、連邦軍の抵抗も激しく、
各所から反転してきた部隊が、尽きる事なく彼らの前面に現れ続けた。


さすがのオデッサの最精鋭も疲労の色が濃くなり、進撃速度は目に見えて鈍った。
少なくとも、短時間での決着を望むのは難しい状況になりつつあった。

連邦軍を突き崩すには、より強力な一撃が必要であったし、それには一旦伸び切った
戦線を整頓して、戦力を整備、集中する必要があった。


だが、キシニョフを失った今となっては、それは望むべくもない。
各部隊が本来の強力な打撃力を取り戻すには、物資の補給が不可欠だからだ。


彼らは困難を承知で、敵前からの、しかも白昼の退却を完遂しなければならない。

だが、連邦軍がこの機会を逃すはずは無い。
この退却戦は、彼らが開戦以来経験した事の無い凄惨なものとなった。




763 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:09


(23/51)

【同日 14:10
トゥルチェア上空】


ガウの巨大な翼に取付けられた四発のジェットエンジンに、ミサイルが命中した。
片翼を根元からもぎ取られて、ガウはゆっくりと回転しながら墜落してゆく。


「貴様、よくも!」


マッケンゼンはグフの手に内蔵されたバルカン砲を斉射する。
ガウにミサイルを叩き込んだ『コア・ブースターU』はエンジン部から火を噴いて爆発した。

しかし、もう一機のコア・ブースターはその大速力にものを言わせ、マッケンゼンの射程
からの離脱に成功する。


「おのれ、逃げるか!
だが・・・」


追いかけて撃墜してやりたいのは山々だが、そうはいかない。

今の彼の任務は、敵機を撃墜することではなく、ガウを守ることだった。
守るべきガウを放って、自分だけが突出することは出来ない。


しかし。
目を転じれば、その他のガウも皆傷ついている。
無傷の機体などありはしない。


特に、彼が真横に付けたガウなどは、原型こそ保っているものの、各所から炎と煙を
吐き出しつつ高度を下げていた。
このままでは墜落しかねない。


「機首をあげろ!
荷は捨てて構わん!
まずは機体を軽くするんだ!」


ガウの格納庫から、おびただしい量の物資を満載したコンテナが虚しく投棄される。
そのコンテナの中身は、地上のハルダー軍集団に届けられるべき武器、弾薬、糧食
類だ。

だが、ここで投棄しなければ、その物資はガウごと地上に落ちて灰になってしまうだろう。

だから、まったく惜しいとは思わない。
それより、開戦以来の熟練搭乗員を無駄に失うほうが、遥かに巨大な損失だ。


満載していたコンテナを捨てて機体が軽くなったのか、ガウは高度を取り戻した。

ダメージコントロール班も奮闘しているらしい。
先ほどよりは火も小さくなっている。
なんとか持ちそうだ。


マッケンゼンは小さく安堵の溜息をついた。


だが、そのとき。

ふと、彼は何かに気づく。
理由は無い。

強いて言えば、パイロットには無くてはならない勘のようなものが働いたのかもしれない。

別に、ニュータイプ論を持ち出すまでもない。
例えば、かつての大航海時代の船乗り達が、的確に風や波を読んだのと同じだ。

熟練の戦士には、そういう戦場の匂いを感じる力があるものだ。


はたして目をこらすと、ガウの後方に位置する太陽の中に、黒点のようなものが見えた。


「ミラー!
6時方向から敵の新手だ!
迎撃しろ!」


彼の命令に応えて、ドップの編隊が連邦軍の新手に突っ込んでいく。


しかし、まだ油断は出来ない。
これからも、連邦軍は全力を挙げて彼らの行く手を阻むだろう。


マッケンゼンに気の休まる時は無い。




764 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:10


(24/51)

マ・クベから退却命令を受けて、最も多忙になったのはマッケンゼンの空挺第1旅団
だったに違いない。


この時点での彼らの最大の役目は、制空権を確保することだった。

オーバーベイの第2軍集団の参戦で、連邦軍の航空兵力が倍化したとはいえ、それ
だけは死守しなければならない。


そして、その制空権を利用して、彼らがやらなければならない事が二つある。

一つは退却するハルダー軍集団を、空から援護することだ。
彼らの四方と、空から迫る連邦軍を撃退しなければならない。


もう一つが補給の問題だ。

西部戦線のジオン軍は退路を断たれつつあった。
連絡線を断たれれば、前線の部隊に物資が届かなくなる。


ところが、制空権を確保しておけば、空路での輸送が可能なのだ。

VTOL(垂直離着陸)機能を持つドダイであれば、地上軍に直接物資を渡す事が出来るし、
あるいは、物資を詰めたコンテナに落下傘を取付け、ガウに投下させるという手もある。


ただし、それは容易なことではない。

まず、空路で輸送できる物資の量は、地上軍が消費する量に比べて遙かに少ない。
つまり、輸送機は、前線とオデッサとの間を何度も往復しなければならない。


そして、それは危険極まりない行為だ。

何故なら、ジオンの輸送隊は、効率と時間を優先する関係上、最短ルートで基地と
前線との間を行き来しなければならない。

ということは、敵は容易にそのルートの見当をつけることができるだろう。


連邦軍は、このルート沿いに戦闘機隊を集中配置し、地上に高射砲群を設置すれば、
極めて効率的にジオンの輸送隊を迎撃できるのだ。

まして、ドダイもガウも、元からの大きさに加え、満載した荷物の為に動きが鈍くなる
だろう。

連邦軍の迎撃を受ければ、厄介な事この上ない。


この空路での輸送活動は、輸送隊に大きな損害を出す危険が極めて大きいのだ。
だからこそ、それを少しでも軽減するため、マッケンゼンらは奮闘しなければならない。


要するにマッケンゼンは、制空権の確保、味方地上軍の援護、そして輸送機の護衛。
それらを全てやらなければならなかった。


だが、敵にオーバーベイの戦力が上乗せされた今、それをやるには彼の航空団は勿論、
オデッサ全ての航空兵力を動員してもまだ足りない。

戦闘機の絶対数が不足しているのだ。


このような任務に従事させていては、いずれガウも、ドダイも、ドップも、いや、彼の空挺
旅団そのものが消滅してしまうだろう。

しかし、それでも軍人として、最善を尽くさなければならない。
いや、彼は人として、地上の数十万もの友軍を見殺しには出来なかったのだ。




765 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:12


(25/51)

【同日 16:20
ババダー付近】


退却するハルダー軍集団に所属する三個軍のうち、殿軍を務めたのは第2軍だった。


この第2軍は、第7、第9、第11、第24の四個師団より成っている。

その中でも最後尾に位置したのは、ジオン軍最強といわれる第9師団である。
さらに第11師団と第24師団が第9師団の両翼を固め、軍集団本隊との連絡線を維持する
役目を第7師団が担った。


その退却行動は整然と行われた。
彼らは数次に渡る連邦軍の波状攻撃を撃退し続けた。


しかし、この時すでに、各部隊の戦闘物資は不足し始めていたのだ。

あと、どれだけ戦闘を続けられるのか。
彼らは弾薬庫の目減り具合を気にしながら戦わなければならなかった。



退却軍の最後尾を三機のドムが走っている。
彼らはつい先程、追撃隊のジムを五機ほど撃破したばかりだった。


「まずいな、もう弾がない。
ヒックス、お前はあと何発残っている?」


エミリアは僚機に問いかけた。


「最後の予備弾槽に三発。
それで終わりです」


その彼女の問いに、疲れきった様子のヒックスが答える。


無理もない。
もう7時間以上もぶっ続けで戦闘をしている。

しかも、彼らは常に激戦の中にいたのだ。
並のパイロットならばとっくに音を上げるか、倒れるかしていただろう。

だが、信じ難いことに、まだ元気な人間がいた。
その人物は、ヒックスの辛気臭さを吹き飛ばすような大声を上げる。


「隊長!
見えた、宝箱だ!
ははは、よかったですなあ」


赤ら顔のカラマーゾフが豪快に笑い声を立てた。
どうやらアルコールが入っているようだ。

が、エミリアは咎めない。
いつものことだからだ。

彼女自身は酒を嗜まないが、戦争なぞというものは、飲まなければやっていられない
という部分もある事は知っている。


それでも一応、モニターに映ったコンテナを視認し、彼が酔って戯言を言ったのではない
ことを確認した。


それは、マッケンゼンの航空団が犠牲を省みず、後に残った彼らのために投下してくれた
コンテナの一つだった。


「けど、問題は中身だな。
さっき見つけたコンテナには、歩兵用の機関銃やグレネードしか入ってなかったんだから。
またあんな外れだったら堪らん」


ヒックスは、疲労度に比例して悲観的になる男であるらしい。
だが、いま一人の男は真逆であるようだ。


「酒があったじゃないか。
俺は十分有難かったぞ」


「ああそうだな、お前にとってはそうだろうさ」


ヒックスがドムの手を器用に操作し、コンテナを空ける。
中から出てきたのは、モビルスーツ用の携帯火器だったが、それは彼の精神を悲観の
水底から浮上させるものではなかった。


「なんだ、ザク用の120ミリマシンガンじゃないか。
しかもえらく古い型だ。
ほんとうに使えるんだろうな、これ」


「ちっ、今回は酒の補充はなしかよ」


エミリアは、不毛な方向に流れかけた部下達の会話を戻す。

「無いよりはましだ、我慢するしかなかろう。
とにかく今は時間がない。
急いでマシンガンの装備を済ませろ」


彼らはザクマシンガンを、ドムの射撃管制システムに認識させ、動作をリンクさせた。

これでドムでも、問題なくこの兵器を使えるはずだ。
むしろ、全体のザクの多さを思えば、こうしておく方が後々やり易いのかもしれない。


エミリアは注意深く周囲の状況を確認する。

後方に敵影は見えない。
また音響や赤外線など、他のセンサー類も敵が近くにいないことを示している。

今のところ、退却は順調に行っているようだ。
この調子で行けば、何とか無事にドナウ川を渡り、西部戦線の友軍と合流できるの
ではないかと思われた。


「さあ出発するぞ!
ぐずぐずするな!」


しかし、その時すでに、彼ら殿軍を務める第2軍の身近に重大な危機が迫っていた。




766 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:13


(26/51)


その危機とは、エルランがレビルの本営を手薄にする為に、ガラツィへ移動させよう
としたチモシェンコ中将の予備軍だった。


彼らがついに反転し、戻ってきたのだ。
50万を超える連邦の大軍は、西方から第2軍に襲い掛かった。


チモシェンコ軍の攻勢を受けたのは、殿軍の西の守りを務める第11師団だった。

彼らはレビル直属部隊の一部と全力で交戦している最中に、側面から急襲を受けた。


チモシェンコは自走砲、ロケット砲、ミサイル車などによる砲列を敷くと、猛烈な砲撃を
ジオン軍の無防備な側面に浴びせた。


砲撃を受けて空いた隊列の穴に、ジムの大群が斬り込む。

この砲撃とモビルスーツの突入は効果的で、第11師団は瞬く間に壊滅寸前に陥った。

例えば、その西端に位置した第53連隊は、たった60分の間に2200名から600名に
まで撃ち減らされたほどだ。


この危機に、第7師団が急行する。

第7師団のモビルスーツ隊の鋭鋒は、チモシェンコ軍を突き崩し、救出作戦は成功しつつ
あるように見えた。


しかし、連邦軍の兵力は、あまりにも膨大だった。

彼らは南北に戦線を伸ばし、自らに突入してきた第7師団と第11師団をまとめて包み込む
ように、北、西、南の三方から包囲してしまったのだ。


それに合わせ、連邦の他の部隊も総攻撃に出た。


すでに武器弾薬などの戦闘物資が尽きかけていたこともあり、第7師団と第11師団は
短い抵抗の後、崩壊した。

彼らは、ハルダーの本隊のいる北へと敗走した。



彼らの敗走で、より悲惨な状況に置かれたのは第9師団だった。
彼らは味方から取り残され、敵中に孤立してしまったのだ。

第9師団の兵士達のほとんどは、第7師団と第11師団の敗走を聞かされていなかった。

だが、彼らを包囲殲滅すべく襲い掛かってくる連邦軍が、その数を加速度的に増やして
いったことで、自らが置かれた状況を理解せずにはいられなかった。


エミリア達のドム小隊も例外ではない。
彼らも苦闘の最中にあった。


「そこだ!」


ヒートサーベルに腹部を串刺しにされ、ジムが倒れ込んだ。


「今だ、突破するぞ!」


エミリアはヒ−トサーベルを片手に、ドムを走らせる。
これが今の彼女に残された唯一の武器だった。


マッケンゼンのコンテナから補充したザクマシンガンは、激しい戦闘の連続ですでに
失われていた。

ヒックスとカラマーゾフがそれに続く。
彼らの手には、まだマシンガンが残ってはいるが、残弾数は少ない。


エミリア達は連邦軍のモビルスーツ隊に包囲されかかっていた。
が、ついにその一角を突き崩した。
彼らは脱出を試みる。


その彼らをジムの集団が追いかける。

その数は多い。
少なくとも10機はいるだろう。


だが、ホバー走行をするドムとでは、移動速度に差があった。
ドムに引き離され、次第に距離が開いてゆく。

脱出が成功したと思われた刹那、彼らの前方に5機の新手が現れた。


「そこをどけえ!」


エミリアは、ホバー走行で銃撃を右に左に躱わしながらジムに接近する。
そして、ヒートサーベルでジムの肩口に斬りつけた。

ヒートサーベルはジムのボディを縦に斬り裂いてゆく。
が、何かに引っかかったのか、その刀身が途中で折れてしまった。


胴を半ばまで斬りつけられたジムは戦闘不能に陥ったが、彼女も最後の武器を
失ってしまう。
彼女のドムに、二機目のジムがビームスプレーガンの狙いを定める。


「ここまでなのか、私は・・・」


エミリアは死を覚悟した。




767 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:14


(27/51)

そのとき、彼女の視界に黒い影が飛び込んできた。


彼女とジムの間に割って入ったのは、ヒックスのドムだった。


「駄目ですよ隊長、戦場で立ち止まっては。
あなたが口を酸っぱくして教えてくれたことでしょう?」


ヒックスはジムに120ミリライフルを向け、銃弾を浴びせた。
コクピットを撃ち抜かれたジムは後方に倒れこむ。


さらに別のジムがビームサーベルを手に襲い掛かってくる。
しかし、ヒックスの反応の方が早い。

正確にジムに狙いを付け、トリガーを引く。
しかし、銃身が異音を発しただけで、銃弾は発射されなかった。


「弾が詰まった・・・のか?
このポンコツが!」


ヒックスのモニターにビームサーベルが迫る。
至近距離から見たそれは、まるで巨木のように見えた。


ビームサーベルはドムを貫いた。

ビームの刃は、コクピットよりやや上の胸の中央部に突き刺さった。
ヒックスは即死を免れたが、小爆発を起こしたコクピットフレームの破片を全身に
浴びてしまう。


彼は自分の身体と、自分の機体がともに致命傷を受け、脱出の時間も無いことを悟る。
だから、彼は最後の操作をした。

ドムは、胸元から火花を散らしながらも両の手を動かし、しっかりとジムを抱きしめた。
そして諸共に爆発する。


「ヒックス!」


エミリアが叫ぶ。

だが、ヒックス機の爆発で、連邦軍の包囲の輪が緩んだ。
すかさず、カラマーゾフのドムが最後のマシンガン弾でジムを倒し、脱出路を拡げる。


エミリアは、ヒックスが稼いだ時間を無駄にはしなかった。

行く手を塞ごうとするジムに体当たりを食らわせ、包囲の輪を抜け出した。
カラマーゾフがそれに続く。


連邦軍は彼らの背に向かって銃撃するが、高い機動力を発揮するドムには、容易に
当たらない。


だが、ついに一条のビームが、カラマーゾフのドムを貫いた。


「た、隊長・・・ヒックス。
こんなところで・・・」


カラマーゾフの断末魔とともにドムが爆発した。


エミリアはドムを走らせながら、後部モニターに映し出された光景を凝視し続けた。
生き残ったのは自分だけだ。


生き残った?
この先、どれだけ生きられるかも分からないのに?
ともに戦い続けた戦友は、皆死んでしまったと言うのに?


前方モニターに警告ランプがともる。

エミリアの前に、彼女の退路を断つべく回り込んだジムの小隊が現れた。


彼女は迷わず、ドムの進路を敵の小隊に向けた。
そして、スロットルレバーを押し込み、最大出力で突進する。


「うあああああああ!」


エミリアは力の限り叫んだ。




第2軍の諸隊は、敵の重囲に陥りながら絶望的な抵抗を続けた。
が、その戦闘は惨烈を通り越して悲惨でさえあった。


その中でも特に第9師団は、オデッサ守備軍中最強を謳われ、レビル本隊への攻撃
作戦では、先陣を担った栄光の部隊だった。


だが、この退却戦では早々に師団長が戦死し、後を引き継いだ旅団長も重傷を負って
昏倒してしまう。

さらにそれを受けた連隊長が、腹部に貫通銃創を負いながらも、従兵に身を支えられ
つつ指揮を執っていたが、彼も飛来した砲弾に五体を引き裂かれるに及び、ついに
この師団の指揮系統は崩壊した。


指揮官を失い、退路を断たれ、弾薬も尽きた第9師団の兵士達は、連邦軍に一方的
に殺され続けた。

生き残った幸運な者もわずかにいたが、彼らも残らず降伏する以外に途は無い。


かつて、この師団の兵員数は1万6200を数えた。
が、この戦闘による損害は、死傷1万4000に達した。


第9師団は、文字通り全滅した。




768 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:16


(28/51)


【11月9日 4:00
オデッサ鉱山基地 地下司令室】


司令部に各地からの敗報が続々と届く。

報告者達はいずれも蒼白な顔で声を震わせ、中には涙を流す者までいたが、
司令官のマ・クベは、どのような報告を受けても端然と座したまま、まったく
表情を変えなかった。


彼にとって、それらは全て予想の範囲内だったからだ。
そもそも、このような状況に陥るであろうと予想し、覚悟をした上で、退却命令を
出したのである。


すでに腹を括っている彼にとって、今更慌てふためくようなことではない。


だが、その彼が唯一、表情を動かしたことがあった。
昨夜半にこの情報を受けたときだ。


「ドナウ河畔で、同士討ちが発生」


実際、これは不快なニュースだった。


原因は、連邦軍の追撃により退路が狭まり、その狭い出口に数十万の味方
が殺到してしまったことにあった。

特に、大河ドナウ河畔では、渡河待ちの部隊の為に名状しがたい程の混雑
に見舞われた。

直ぐ後ろに、彼らを殺すべく敵の追手が迫っているのに、動くことすら出来ない。
兵士達の不安と焦燥は臨界点に達しつつあった。


そこへ連邦軍の追撃部隊の一部が砲撃を加えてきたのだ。

この連邦軍の追撃部隊は、本隊から突出した小部隊であり、砲も少なく、その
砲撃の被害は限定的だったのだが、撃たれた当の兵士達はそう思わなかった。


情報が錯綜し、彼らは互いに混乱し、また闇夜のことでもあり、誰が敵で、誰が
味方なのかさえ判別できなくなった。


あげくの果てに、狂乱したある兵士が味方に発砲してしまったのである。

発砲された部隊の隊長は、それを敵の襲撃だと誤認した。
逆上した彼は重機関銃を引っ張り出した。

そして、ろくに相手を確認もせず、あたりにいる味方兵をまとめて薙ぎ倒したのだ。


この騒ぎを発火点として、大混乱が発生し、数千人の死者を出すに至ったのだった。



ジオン軍の指揮系統の混乱が、これほど如実に現れた例はない。
また、彼らの退却の妨げにもなるだろう。

現に、ジオン軍の退却は遅れていた。
オデッサが陥ちる前に、彼ら退却軍を全て迎え入れることは出来そうにない。


マ・クベが不快になったのはその為だ。


彼は決断しなければならなかった。
席から立ち上がり、大きくはないが、よく透る、落ち着いた声音で告げる。


「我が軍の負けだ、諸君。
責任は全てこの私にある」


無言のざわめきとともに、参謀達が見つめる。
彼はひっそりと自嘲の笑みを浮かべた。


「大局の要を愚か者どもに委ねた。
人を見る目を欠いたということだ。
指揮官として」


そして、副官に命ずる。


「ウラガン、全軍に通達。
ただちに撤退準備にかかれ。
HLVの発射準備急がせ、潜水艦隊は全て黒海沿岸の港湾都市へ入港、退却軍の
受け入れに尽力すべし。
準備が出来次第、07:00以降をもって順次撤退を開始せよ」


居並ぶ参謀達は、等しく肩を落とした。
無念の思いに、嗚咽を漏らす者までいる。

だが、その中にあって、ウラガンだけは問わねばならない。


「では、マダガスカルの方はいかがなさいますか」


『マダガスカル』は司令部の脱出用として確保してあった、ザンジバル級機動巡洋艦
の名だ。

ウラガンは暗に、司令部は脱出するのか、それともオデッサとともに玉砕するのか、
と聞いたのだ。




769 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:17


(29/51)


マ・クベは、澱みなく答えた


「玉砕など無意味だ。
私が死んで、代わりに数万の将兵が救われるのならばそれもよいが。
私が今更前線に出て、無益に死んだところで何も変わりはすまい」


ウラガンは安堵した。

自分の命が助かったからではない。
上官を生き長らえさせるのも、副官の役目だからだ。


マ・クベは続ける。

「後世の人間は、私を腰抜けよ、卑怯者よと笑うだろう。
だが、言いたい者には言わせておけばよい」


ここで少しうつむく。


「それよりも、私の失態によってキシリア様の発言力が低下しかねん。
何よりもそれが心配だ。
私にも男としての意地がある。
自分の失態は、自分の手で挽回し、キシリア様をお支えせねばな」


ウラガンは頷いた。

雪辱の機会というものは、生きていてこそ得られるものであって、死んだ人間に
そんなものは無いのだ。

だが、彼にはもう一つ、上官に訊くべき事があった。


「司令、それと、例の件についてですが」


マ・クベは顔を上げた。


「言いたい事は分かっている。
核ミサイルの事だな?」


息の呑む参謀達。
マ・クベの顔に貼り付いた自嘲の笑みは、まだ消えていない。


それは、ギレン・ザビ総帥より彼に下された密命だった。
曰く、
万が一、我が軍に利あらざれば、N兵器を用いて連邦の主要都市を焼き払うべし。


N兵器とは核弾頭を搭載した弾道ミサイルのことだ。
無論、その使用は南極条約違反である。


そのギレンからの密命を、マ・クベは事も無げに口にしてみせた。
そして言う。


「ウラガン、私は思うのだ。
この戦争の結末が勝利であろうと、あるいは違うものになろうと、少なくとも後の
スペース・ノイドにとって、恥となるようなものであってはならんのだ、と」


マ・クベの顔から笑みは消えている。


「彼らがスペースノイドである事を、自ら誇りに出来るような未来にならねば困る。
そうでなければ、死んだ将兵が浮かばれん。
そうではないか?」


ウラガンも参謀達も、黙って彼の言葉を聞いている。


「一週間戦争や、コロニー落としは良しとしよう。
あれは南極条約締結前のことだからな。
だが、今は違う。
まして、非武装の民間人に向かって核を撃て、などと。
愚かなことだ」


そして、決定的なことを言った。


「ジオニズムの理想なぞ、私にとって、白磁の名品一個にも値しないのだよ」


だから、ギレンの命令には従えぬ。
この戦争が、後のスペースノイド自立の妨げとなってはならない。


ウラガン達を見据える目は、そう語っていた。
そして、マ・クベの意思は、正確に彼らに伝わった。
彼らは気圧されたように、何も言えないでいる。


だが、どこまでも自分のペースで話す男だ。

マ・クベは軍人らしからぬ細い指で、細い顎をつまみ、一つ考え込むと、とんでも
ない事を言いだした。


「だが、そうだな、こうしよう。
レビルに伝えてやれ。
これ以上進まば、貴軍に向けて水爆を使うぞ、とな。
止まらねば適当に1、2発撃て」


ウラガンは唾を飲み下した。
そんな彼を見て、マ・クベは悪戯っぽく笑う。


「ただし、弾頭には核ではなく、通常弾頭を搭載するのだ。
先程も言ったが、未来に禍根は残したくない。
私ならばこのような陳腐な策には掛からぬが、失敗したところで何の痛痒も無い。
さあ、そのような事より、撤退準備を急ぎたまえ」


彼がそういう邪気のない、少年のような笑顔を見せたのは、それが最初で最後だった、
とウラガンが気付くのは、後にマ・クベが宇宙で戦死した後の事だった。




770 名前:アナベル・ガトー ◆JZkC7c9U 投稿日:2008/08/12(Tue) 00:19


(30/51)

【11月9日 5:20
クリミア半島 セヴァストーポリ
ガイタヌイ 207高地】


「よーし、いい子だ。
そのまま、そのまま・・・」


ヴィットマンが、主砲の照準器を覗き込んだまま呟く。

薄明かりの中、彼が狙いを定める照星の先には、退却してくる手負いのザクが
映されている。

ザクは脚部を損傷しているのか、足を引きずりながら歩いている。


彼は照準をわずかに下げる。

必死に、しかし、のろのろと逃げようとするザクを追尾する2台の61式戦車と、
数十人の武装歩兵の姿が見えた。

同じ光景を自分の照準機で見ていたクルトが言う。


「あいつら、楽しんでいやがるな。
もう勝った気でいるんでしょうかね?」


「そうらしいな。
ならば教育してやるとしよう。
マルコ、徹甲弾を装填しろ!」


マルコヴィッチは無言で手元のパネルを操作し、俗にマゼラトップ砲と言われる
175ミリ主砲に徹甲弾を装填した。


彼の手際を横目で見ていたヴィットマンは、密かに満足する。

最初は固くなっちまってどうにもならなかったが、随分と慣れたじゃないか。
余計な口答えもしなくなったしな。


「距離、400!
主砲発射!」


鈍い振動が車体を包む。

175ミリ無反動砲から弾き出された砲弾は、真直ぐ61式戦車へ飛び、命中した。
61式はたちまち炎上する。

この間、1秒足らず。


慌てて歩兵が散開し、戦車は稜線に隠れようとする。
しかし、ヴィットマンはそれを逃さない。

すかさず射出された第二弾は、正確にもう一台の61式を撃ち抜いた。


この戦いが始まってから、さんざんに見せつけられた事とはいえ、あまりの手際の
良さにマルコヴィッチは声を呑む。


「お見事!
こっちも負けてはいられませんなあ」


クルトがマゼラベースの35ミリ三連装機銃のトリガーを引く。

直径35ミリもの銃弾が、人体に命中してはひとたまりもない。
銃弾は、逃げ遅れた数人の敵兵の上半身を吹き飛ばし、肉片に変えた。


残りの敵兵は、ヴィットマンらの周りに伏せていたジオン軍歩兵の突撃を受けて、
短い抵抗ののち全滅した。



オデッサの北部戦線が突破され、西部戦線も崩壊したこの時、マ・クベから、
”大波に飲み込まれた岩礁のようなもの”と評されたセヴァストーポリ要塞は、
なお健在であった。


起伏に富んだ地形、延々と続く鉄条網、広大な地雷原、無数の塹壕と堡塁、
トーチカ、砲台、そして、地下に築かれた永久要塞は、連邦の大軍をもって
しても容易に突破できるものではなかった。


しかし、連邦軍も20対1の兵力差にものを言わせ、強引に攻め立てた。
この強襲にセヴァストーポリとて無傷ではいられず、満身創痍と言っていい
状態だ。


現に、この207高地でも、残っている砲台はヴィットマンらの戦車の他は、
数える程しかない。

生き残りのわずかな歩兵が、この地中に埋められた動けぬ戦車に集まり、
ここを小さな砦として抵抗を続けている状態だったのだ。


マ・クベから、東部戦線への撤退命令は、この直前に発令されていたが、
彼らにはまだ、その命令は知らされていなかった。

西部戦線の兵を一人でも多く撤収させるため、踏ん張らなければならない立場
だったこともあるが、真相はあまりの激しい戦闘で、防衛司令部からの電文が
届かず、直接口頭で伝えるべき伝令兵も、その任務の中途でことごとく戦死して
しまう為だった。


このわずかな遅れが、彼らの運命を分けることになる。
これが、戦場の過酷さというものだった。




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