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【オリジナル】異国小路の吸血姫 新館ノ参

776 名前:吸血姫アーチェロ ◆ufrlRV4E 投稿日:2019/10/26(Sat) 20:06
>>774

貴方様の高校生活はきっと数々の思い出に彩られた一生の宝のような時間だったことでしょうね。
そんな時間を持てたこと、それを今覚えているということは、貴方様の心の豊かさを形作るとても大切なピースでございましょう。
どうか、これからも大切になさって下さいませ。

わたくしの思い出の場所でございますか?
それは…たくさんございますわ。
まずは、毎日目にする場所、すなわち我が家の門から玄関へと緩やかな曲線を描いて続く一筋の道でございます。
わたくしはそこで桜舞い散る中を歩いて来られた方と一生忘れることのできない出会いを得たのでございますから。
我が家のメイド…羽藤柚葉さんとの変わることの無い縁はそこから始まりました。
今も毎日そこを通るとき、心温まるのを覚える特別な場所のでございますよ。
柚葉さんと過ごした経観塚の彼女の家もそうでございます。

他にも、わたくしを怖がっていたクラスメイトの方が雨の日にわたくしに傘を差しかけてくださった学校の昇降口、今も社交部の仲間が集う我が家の洋間もそう、大切思い出の場所でございますわ。

イタリアの我が故郷にも特別な思い出の場所がございます。
それは我が領地からは離れたとある平原、そこはわたくしの一の兄様が人間との戦乱の中斃れた場所…。
兄が不帰の方となられてから後にわたくしはそこを訪れましたが、もはや戦の跡も見当たらぬその場所で一本の薔薇の木が花を咲かせていました。
鮮やかな紫の薔薇の花を一輪だけ。
戦乱のすぐ後で生えて鮮やかに花咲くその木を人間は
「斃れた吸血鬼の魔の気を受けて生えた。」
と噂し怖れ切ろうとしましたが、木は決して刃を受け付けなかったとか。

ですが、わたくしにはその薔薇がとても優しい気を放って微笑んでいるように感じられて。
何故かそうしなければならないという想いに駆られたわたくしが静かに枝に刃を入れますと、枝はいともたやすく我が手に納まったのでございます。
わたくしはその花を持って帰り庭に植えますと、挿し木が育っていつも一輪の薔薇を咲かせ続けるのでございます。
平原で生えていた時よりもなおいっそう鮮やかに。
わたくしには、あの平原で兄様は一輪の薔薇となり誰か我が家へ連れ帰るのを待っていてくださった、そう思えてならないのですよ。


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