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【オリジナル】国立光明学院 12時限目【異能】

1 名前:神代 ユーリ ◆bsWHC3P. 投稿日:2020/05/22(Fri) 12:16

…ようこそ、"光明学院"へ。

ここは名家の令息や令嬢が多数在籍する名門高校。
だけど、その実態は"異能"と呼ばれる力を持つ者達…いわば"超能力者"。
彼らを集めて様々な訓練を課し、国の護り手として育て上げる政府直属の教育機関なのさ。

かつて"神の使い"と崇められ、あるいは"悪魔の化身"と恐れられてきた異能者達。
その強大な力に、政府は戦術的価値を見出だした…
そして設立されたのがこの学院、という訳だよ。

…一応、パンフレットを渡しておこうか。
興味を持ったなら、その資料…"入学案内"のページを読んでみて。
当校に入学するにあたって必要な情報がすべて書いてあるから。

ttps://www65.atwiki.jp/kkgakuin/

名簿の閲覧もその他施設の利用も、在籍者であれば原則自由。
"校則"さえ守ってくれれば、有意義で楽しい学院生活を保証するよ。


†名簿とその他の施設†

名簿(キャラクター):
ttps://www65.atwiki.jp/kkgakuin/pages/43.html

美術室(イラスト置き場):
ttps://ux.getuploader.com/komyo/
(閲覧パスワードヒント:「光明学院と対を成す異能者学院の名前」)

分校(避難所):
ttp://jbbs.shitaraba.net/internet/24652/

旧校舎(旧避難所)
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17702/


650 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2020/11/07(Sat) 21:22
「ダメだね、もう彼の声は聞こえない。所謂『寿命』だよ」
キッチンラックの中段に置かれたオーブンレンジに対して、まるで目の高さを合わせるように、
"天野典人"は中腰になって、その「彼」を撫でながら呟く。
「うう・・・まだ六、七年ぐらいしか経ってないのに・・・」
一方、"天野優月"は典人の言葉を聞くや否や、恋人にするようにオーブンレンジに顔を埋める。
「十年経ってないのに・・・」
「うちは特に、お菓子を焼いたりでよく使うからねぇ」
尚も膝をついて、オーブンレンジに語りかけている優月を尻目に、
典人は「彼」に一礼すると、少し離れたダイニングの椅子に腰掛けた。
「それでどうする?明日は仕事だから、車を出せるのは来週になるけど」
典人が遠目に見つめるカレンダーには、赤い数字の下に「典人出勤」と書かれている。
「できれば早く欲しい・・・買ってる材料的に」
「それなら電気屋に送ってもらうしかないけど」
「なになに?どうしたの?」
元々明るいとは言えない典人と、オーブンレンジの死で暗くなってしまっている優月の元に、
二階から降りてきた少女は二人の明るさを補うような笑顔でパタパタと駆け寄る。
「美空ぅ・・・オーブンが死んじゃったよ・・・」
「えぇー!?」
美空――二人の娘である"天野美空"は今度はバタバタとオーブンレンジに駆け寄り、
優月と同じく膝をついたかと思うと、手を合わせて拝み始める。
「美空、それは何かな?」
「死んじゃったみたいだから、お祈り」
「そうかい」と典人は小さく笑い、優月も少し驚いたもののすぐに微笑んで、美空と一緒にお祈りを始めた。

美空のお祈りはすぐに終わり、彼女は合わせた手を開くと同時にピョンと勢いよく立ち上がる。
「ねぇ!じゃあ、お買いもの行くんだよね!」
さっきまでオーブンレンジの死を悼んでいたとは思えない笑顔の美空の提案を受けて、
優月もお祈りを経て落ち着いたのか、少し楽しそうに考え込む。
「うーん、どうしよう」
「何時行くにしても、急ぎで何か必要な訳でも無いし、近所の電気屋で良いんじゃないかな」
「えぇー!お買いもの行きたーい!」
優月と典人はラジオ体操のようにぶんぶんと腕を振り回す美空を眺めた後、同時にお互いを見合わせる、
と同時に優月が先手を取って表情を崩し、典人も「やれやれ」と言わんばかりに薄く笑う。
「よし!」と言うが早いか、優月は先程の美空と同じ切り替えの早さでピョンと立ち上がり、
素早く携帯電話の液晶に指を滑らせたかと思うと、今度は時が止まったように液晶を見つめる。
「よし!」
ものの数秒後の二度目の掛け声で悟ったのか、美空も後ろに回り込んで液晶を覗き込むと、
優月の肩を揺らしながら歓喜の声を上げる。
「行けるって?」
「うん、明日車出してくれるって!」
話しながらも美空は飛び跳ねて優月を揺らし、優月も合わせて体を揺らしている。
それが何度か繰り返されると、今度は美空が「よし!」と掛け声を上げ、
揺れる優月の体をピタリと止めて階段に向かって駆け出す。
「じゃあ、明日の服選んでくるね!」
まだ飛び跳ね足りないのか、美空はさっきまでの勢いを取り戻して階段を駆け上がっていった。

いつの間に淹れたのか、典人は湯呑みのお茶を啜り、一息つくと同時に呟く。
「もう中学生なのに、美空は何時まで経っても子供っぽいね」
「まだ中学生だもん。私もあんな感じだったよ」
「僕はそうでも無かったと思うけど」
「典人くんが大人っぽすぎたんだってば」
優月は典人の後ろに回り込み、肩に手を置いて彼の頭の上で話す。
「気をつけないと、すぐおじいちゃんになっちゃうよ」
先程の美空と同じように、今度は優月が典人の体を揺らすが、
二人と違って乗り気ではない典人の体は機械的にぎこちなく動いている。
典人は彼女の言葉には答えないのか、あるいは沈黙が答えだったのか、
少しの間の後にお茶を啜って、「まぁ、いいや」と飲み終わった湯呑みを持って流しに向かう。
「鶴によろしく」
それだけ言うと、典人は湯呑みと溜まっていた食器を洗い始める。
「自分で言えばいいのに」
ただでさえ、水音で聞こえにくいところに小さな声で、優月は俯いて口を尖らせながら呟いた。


651 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2020/11/07(Sat) 21:23
日曜日の昼前、真ん中のSが稲妻のようになっているRAISAKAのロゴが入った、
個人所有としては最高級車である「エクレール」がそれには似つかわしくない閑静な住宅街に停車していた。
そのボンネットに乱暴にも腰掛けていた女性は新たな乗客の姿を認めると、
乱暴なポーズを崩さないまま顔を上げて、乗客達に笑顔を向ける。
「御久し振りです、義姉さん」
「義姉さんはやめてってば!」
失礼ながら年齢を考えると若作りと言われても仕方ない、
しかしその美しさと長身の前には誰も何も言えないであろうラフな格好で、
涛風夕鶴はその服装と同じ軽いノリで笑っている。
「また車替えたんだ」
「神主と坊主は車でマウント取り合いますから」
「・・・へぇ・・・」
笑顔のまま汗マークを浮かべたような表情の優月の横で美空は、こちらは満面の笑顔で夕鶴を見つめている。
「おばちゃん、今日はありがとう」
「・・・美空ぅ?」
優月は鈍い笑顔を夕鶴に向けたまま、隣ではしゃいでいる美空の頭を鷲掴みにする。
「おばちゃんじゃなくて、お姉ちゃんでしょ?それかゆーちゃん」
「伯母ですし、ママの同い年なら名実共におばちゃんでしょう」
「ゆーちゃんがおばちゃんなら、私までおばちゃんになっちゃったみたいだもん」
「そう言ってるんです」
美空の頭に置いた手を押し込みながら、優月はガクッとうなだれる。
いつものことなのか、美空は垂れた頭から視線だけを夕鶴に向け、
夕鶴も美空と目を合わせながら、二人して笑っていた。

ショッピングセンターで服を買い、バッグを買い、無意味に雑貨や家具を見、
忘れかけていたオーブンレンジも買った三人はフードコートで遅い昼食を取り、
今度は有意義ではあるが長い話に花を咲かせていた。
「美空ちゃんはもう中学生でしたっけ?」
現在、美空が並んでいるであろうお手洗いの方角に少し疲れたような表情を向けながら夕鶴は問い、
優月は笑顔で頷く。
「可愛いですね、何時まで経っても子供っぽくて」
「典人くんも同じこと言ってたよ」
優月は笑顔のまま答えたが、夕鶴は少し疲れたような表情が無表情に変化しただけで、
黙って紙コップのお冷を啜る。
「典人くん、ゆーちゃんによろしく言っといてって。自分で言えばいいのにね」
夕鶴は紙コップを置いて一息ついただけで、やはり無表情で黙っている。
「ねぇ、ゆーちゃん。典人くんとはやっぱりもう会わないの?」
優月と目を合わせているが無表情で黙っている夕鶴に、
優月は笑顔を崩さないように努力しながらも険しくなりつつある表情で畳みかける。
そんな優月を哀れんだのか堪忍したのか、夕鶴は軽く微笑んで視線を優月から逸らした。
「涛風としては会えず、わたし個人としては会いたく無いですからね。
 優月さんと会うのもわたし個人が会いたいだけで、褒められた事では有りませんから」
「会いたくないの?」
軽く微笑んだままの夕鶴に、優月は今度こそ険しい表情を向けている。
「えぇ。兄さんと会うと、わたしはまた碌でも無い事を考えてしまいますから」
明後日の方向を、というより虚空を見つめたまま、夕鶴は続ける。
「兄さんには力があった。新しい世界を築き上げる、ヒーローに成れる力。
 わたしはそんな兄さんの後ろで、新しい世界を見たかった」
夕鶴は虚空に向けて微笑んだ後、表情を崩さないまま優月に向ける。
「でも兄さんは貴女だけのヒーローに成って、自分の世界を築いた。
 兄さんのことは恨みましたけど、兄さんが幸せなら邪魔をする心算も有りません。それに」
不意に口を閉じ、無言のまま目を合わせ続ける夕鶴に、
優月も無表情のまま瞬きを一つして「それに?」と問う。
しかし夕鶴も大きく瞬きをすると、ちょうど帰ってきた美空の方を体ごと向き、
優月のことなど忘れてしまったように、笑顔で美空にお手拭きを手渡した。


652 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2020/11/07(Sat) 21:24
ルームミラーには買ったばかりのミニリュックを眺める美空が映っている。
助手席に座る優月との会話に区切りがついた夕鶴はハンドルを指で叩きながら、ルームミラーに笑顔を向ける。
「美空ちゃん、今も羽根の柄好きなんだね」
美空は驚いたように顔を見上げると、空色に白い羽根が舞う柄のミニリュックを押さえて、
興味がないような振りをしながら窓の外の景色に目を向ける。
「もう中学生なのに恥ずかしいんだって」
「今も見るんだ。ママと一緒に、翼で空を飛ぶ夢」
少し困ったような顔で微笑む優月を尻目に、夕鶴は小気味よくハンドルを叩き続ける。
「美空ちゃん」
はっきりと、改めて呼び掛けられた美空は反射的に、少し驚いたような表情で夕鶴本人を、
続いてバックミラーに映るその目に視線を向ける。
「わたしは良いと思うな。背中に生えた翼で空を飛べたり、色んな物とお話が出来たり、そんな世界」
優月は緊張が走ったとばかりに素早く夕鶴に顔を向けたが、夕鶴は構わずに続ける。
「そんな不思議な世界、本当に有ったら素敵だと思う」
優月は緊張を隠せない表情のまま、美空が座る後部座席を振り返る。
しかし美空は優月には気付かずに窓の外の景色を、今度は少し微笑みながら眺めていた。

続かない。


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