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【オリジナル】異国小路の吸血姫　新館ノ参

284 名前：吸血姫アーチェロ ◆ufrlRV4E 投稿日：2018/07/22(Sun) 09:26

>>283（柚葉さん）

ふう…、お客様をお見送りしたついでに庭の草木にお水をやりましたが、本当にこの暑さには参りますわね
ニュースでは北欧の北極圏でも30度を超える暑さを記録したとかで、世界的なもののようですね
あちらのランドヴェーッティル様方　−　精霊の方々です　−　もさぞ参っておいででしょう
国際クール宅配便で、水羊羹の詰め合わせを送って差し上げましょうか

…！
私の耳朶を打つこの涙声…、柚葉さん、柚葉さんが泣いています！
一体何が！
『お母さん』？まさか、ご母堂様の御身に何かあったのですか！？
（わたくしは、履物を脱ぎ捨てると廊下を、部屋を駆け抜けて、柚葉さんの許へ駆けつける）

…ホッ
柚葉さん、お昼寝中だったのですか
ああ、愛らしい寝顔でございます
このまましばらく見つめていたいけれど、哀しい夢をご覧になっているのは忍びないです
柚葉さん、柚葉さん、そろそろお目覚めになっては如何ですか？

あらあら、そんなに恐縮なさらないで…
お仕事でお疲れですのに、それに気づかずにいたわたくしの失態でございます
ごめんなさい
それで…、宜しければどんな夢をご覧になったか教えてくださいませんか？
哀しいお気持ちも、お話しくだされば少しは気が軽くなるかも知れませんよ

（柚葉さんから夢のお話を伺います）
そうですか、常盤御前様のお心に触れられたのですか…
いえ、『お母さん』と仰っていましたから、むしろ常盤御前様が連れていらした子どもたちの思念でしょうか
平家の追手に怯えながら一つのお布団で母子が寄り添って眠ったゆえ、牛若丸様ら子どもたちの思念も宿っているでしょう…

＞あの光景を私時代劇専門のチャンネルで、実家で大型時代劇で見て、
＞雪にも負けぬ母の愛を知り、切なくも温かい気持ちになったのをよく覚えていますよ。

まあ、柚葉さんがご覧になっていた時代劇の記憶が重なったのですね？
では、この枕で眠ると、母子の思念に枕を使った人の記憶が感応して、その想いが呼び起こされるのでしょう
柚葉さんのお優しい心が、牛若丸様達の心に深い惻隠の情を覚え、それゆえに源義経様のハッピーエンドを思い出されたのですね
枕の方も、優しい人の心に触れられて、慰められたのではないかしら？

＞まさか源氏所縁の品がお屋敷の蔵に所蔵されていたとは…驚きですね。

この枕が残っているのはきっと、この枕に宿った源家の貴婦人とその子どもの苦難を思う人々によって大切に伝えられてまいったからでしょうね
実は、この枕のことを市立博物館の学芸員の方に話しましたところ、この街には源義経様の郎党の方たちが落ちのびてきたという伝説があるそうでございます
兄・頼朝公の不興を買った義経様に仕えた人々は散り散りになりましたが、この地に来た落人たちは住民に迎え入れられ安住の場所とした、とのお話でございます
この土地が昔から招かれざる客にも優しかったというのは、我が身を振り返っても納得のいく、嬉しい話でございますわ

（夕餉の時間でございます）

あら…、これは美味しそうな玉子丼ですわね
これが、土用丑の日の名物ということはもしかして…

あらあら、ほっぺたを膨らませていた次女ちゃんが、玉子をかき分けて目がキラキラ、これ、よだれを垂らしてはいけませんよ
「きんし丼」ですか、ステキですわ
きれいな玉子の中から、これまた食欲をそそる色と香りの鰻が現れて

ん〜、美味しい！
出し巻き卵の甘味にくるまれた鰻の味はなお一層ふくよかで奥深くて、胃の腑を蕩かすこと尋常ではございませんわ
立ち昇る香りも互いに引き立て合って、なんとういく甘美でございましょう

玉子と鰻の取り合わせに『う巻き』と言うのがあるのは知っていましたが
こうしてホクホクとした温かい丼をいただくのこそ至高と言わずに何と言いましょう
暑さに参っていた体に元気が戻ってくるようでございます…

＞それに近々、お待ちかねの海水浴が待っておりますからね。

柚葉さんがすっかりお膳立てをして下さったのですね
本当にありがとうございます
主祭神様がどんな方なのか、挨拶させていただくときが楽しみでございます

…これは大変不遜な考えかも知れませんけれど
もしも彼の方々が、土地神様が時々そうされるように顕現していただけるなら
ご一緒に海水浴を楽しむことも…、なんてふと考えてしまうのですよ


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