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【オリジナル】異国小路の吸血姫 新館ノ四

581 名前:吸血姫メイド・アーチェロ ◆ufrlRV4E 投稿日:2021/05/23(Sun) 13:48
>>571(柚葉さん)(つづきでございます)

むかしむかし、ある村の村はずれに一人の若者が住んでおりました。
その若者は、とてもけちんぼだと評判でした。
「お前もそろそろ嫁をもらわんか?」
と村人がすすめても、
「めんどうじゃから、そんな者はいらん。
 だけど、飯を食わない嫁ならもろうてもええな。」
と答えて、あきれられる始末でした。

ある日一人の若い女が訪ねてまいりまして
「わたくしはご飯を食べませんので、お嫁にして下さい。」
と申しました。
若者は
「そうか、それなら嫁にしてやってもええ。」
と喜んで、その女をお嫁さんにしました。

そのお嫁さんは、若者のために三度のご飯を作っても、本当に自分はただ黙ってご飯を他所って差し出す
ばかりでした。
若者は
「ええ嫁をもろうた。飯を食わずに元気で働く、ほんに良い嫁をもろうた。」
と喜んでおりました。

ですが奇妙なことに、お嫁さんが来てから米びつの米がどんどん減っていくのです。
若者は不思議に思って、ある日畑仕事に行くふりをして、こっそり戻ってきて天井裏に隠れると、お嫁さんの
様子をじっと眺めておりました。

そうしましたら、お嫁さんは米びつの米を大釜にどさっと入れてご飯を炊き始めました。
ご飯が炊けると、大釜から取り出しておにぎりを作り始めました。
たくさんたくさん作りますと、頭の髪の結いを解きました。
するとどうでしょう、頭のてっぺんに大きな口がぽっかりと空いているではありませんか。
お嫁さんはその中におにぎりを次々と入れて食べ始めたのでした。
どんどんどんどんおにぎりを放り込んで、とうとう全部食べてしまいました。
お嫁さんは、なんと妖怪『二口女』だったのです…。

若者はびっくりしました。
あわてて屋根裏部屋からこっそり出ていき、何食わぬ顔で戻ってきますと
「まことにすまぬが、お前、里に戻ってはくれないか?」
と申します。

お嫁さんは驚くこともなく
「はい、お前様がそうおっしゃるなら ― 」

(あ、あら、なんでしょう、急に視線を感じてまいりました。
 …お母様、なぜか表情を消してこちらをご覧になって。
 それに、隣の女性が髪に隠れた奥の瞳が射すような視線を…?)

「…いいえ、そのようなことを仰られても困ります。
 わたくしはずっとお前様のお傍にいたいのです。」

(ええっ、わたくしなぜ、このようなことを言っているの?)(汗汗)

若者が
「聞き分けの無いことを言わんでくれ、俺はお前と一緒にはおられん。」
と言いますと、お嫁さんはしょんぼりして
「分かりました。わたくしは出ていきます。
 ですが、里への土産に大きな樽を一つください。」
そう言いますので、若者がそれならといちばん大きな樽をかついできました。
と、お嫁さんは若者を担ぎ上げると樽の中に放り込み、樽を担いで家の外に走り出ました。

(申し訳ございません。さらにつづきます。)

582 名前:吸血姫メイド・アーチェロ ◆ufrlRV4E 投稿日:2021/05/23(Sun) 14:11
>>571(柚葉さん)(さらにつづきでございます)

お嫁さんは走りながら
「米を食われて嫌なら、山の中に棲もう。
 山には木の実、草の実、獣もたくさんいる。
 いくらでも腹いっぱい食わせてやる
二人でずっと暮らそう。」
と、そう申しました。

そうしましたら森の中から木霊のように声が響きました。
「生きのいい人間を連れてきたのに、独り占めはさせん。
 そいつはみんなで食うのじゃ。」
そう言って目の前に次々と怪しい影が ― 多くの二口女が現れ立ちふさがったのです。
お嫁さんは腕を振るうとすごい力で二口女たちをなぎ倒し、なおも走り続けました。

若者はとっさに樽から飛び出すと、走って走って、近くの沼に転がり落ち、丈の高い草の間に隠れました。
遠くから叫び声、打ち合う音が聞こえてきましたが、やがてそれも静まりました。

若者がじっとしていると、足音が近づいてきます。
それはお嫁さんのものでした。
草むらの隙間にじっと目を凝らしたお嫁さんは言いました。

「山の中ならお前様に食べ物のことで苦労をかけないと思ったが、どうやら仲間の者たちがほおっておいて
くれぬようじゃ。
 もう村に帰ってくれていい。
 すまなかったな、こんな妖怪の相手をさせてしもうて。」

「ちがう!」

若者は大声で答えました。

「俺が小さい時、俺の村はひどい不作で大勢飢え死にした。
 俺の父母も…。
 俺一人、他所の村の親族に助けられかろうじて生き延びた。
 この村だって貧しく、いつ不作で多くの人が死ぬかもわからぬ。
 そんな場所で女房子供を持って、いつか食わせてやれない日がくるのが怖かったのだ。
 お前は優しくて良い嫁だった…。」

そう言うと、お嫁さんは優しい顔になって言いました。

「そうか…。
 一つ、教えておこう。
 お前様が今隠れているその草は『菖蒲』と言ってな、魔除けの力がある。
 それを持って帰るがいい。
 それを植えておけば、仲間たちも手が出せまいよ。」

それから寂しげに

「昔、人の子のふりをして出歩いて迷子になり行き倒れていたわしに、自分も腹を減らしながら握り飯を
恵んでくれたこと、覚えておるか?」

若者が驚いた顔で見つめてくるのを見ると、女は少しだけ微笑んで去っていきました。
お嫁さんはそれから二度と現れることはありませんでした。

おしまい


(控室に戻ってまいりました…。)

「お疲れさまぁ。
 あらら、本当に疲れているようねぇ。
 ぐったりしちゃってぇ。」

…怖い話をするはずでしたのに、途中から趣旨が変わってしまいましたわ。
親御さんたちも不思議そうな顔をしてらっしゃいましたし。

「まあまあ、良いじゃないのぉ。
 それなりに聞き入ってもらえたんじゃないかしらぁ。
 わたくしの昔の『土産話』。」

二百年ぶりぐらいに思い出しましたわ。
昔、故郷の城館で聴かせていただいたのを。

「そうよぉ、ちゃんと覚えていてくれて嬉しいわぁ。
 本人たちの前で改ざんされた話を聞かせるのも申し訳ないしぃ。」

『本人』って、ま、まさか!?
ええっ、『あんたも知ってる人よぉ。』って、そういう意味でしたの?

「さらに言うなら、『本人』だけじゃないけどねぇ。」

あ…、よく見ると『ご本人』のスカートの後ろに女の子が。

「母親の血を濃く継いだもので、長生きなのよねぇ。
 かわいいでしょ?
 いや〜、くだんの若者とは仲睦まじくてこんな一粒種までできちゃってぇ。
 嬉しいわぁ。
 今日は、たっくさん柏餅を用意するからたっぷり食べてねぇ。」

(その後、わたしはたくさんの柏餅づくりにかかりきりになったのでした。)


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