【オリジナル】異国小路の吸血姫　新館ノ六

426 名前：水橋パルスィ@闕腋袍→素襖 ◆Parseejo 投稿日：2024/03/13(Wed) 17:49

>>360, >>399, >>408, >>409 羽藤侍従（2/3）
ええ、姫様然り羽藤侍従然り使い魔風情に「様」などもったいない、ということで私も一人称を「妾」から改めました。
こちらこそ長女侍従、次女侍従、三女侍従に早く追いつき、姫様の手足として務められるよう精進致します。
おやおや、素性の知れぬ新参に台所を任せようとはご油断が過ぎますわ、姫様と屋敷神様の膳へ毒を盛るやもしれないでしょうに。
ただし、背信は鬼の生き方にあらず、ご信任に応えるべく腕を揮いましょう。

―――さて、今宵は言い出した通りの膳をご用意致しましたが、次は前菜を変えてみたいものですね。
外の世界はやはり魚介類が豊富、カジキのセビーチェを一口大タルトの上に載せたものを次に任された時は試したく存じます。
神格と魔族が共に膳を囲むとは倭国ならではの光景、"財団"の走狗となった我が末裔にお二柱と羽藤侍従の爪の垢でも煎じて飲ませたいところで。
もっとも、神格に認められた魔族など姫様の他には寡聞にして存じませんが。

口に合うものを探していたら作るものが西遷していっただけのこと、倭国の料理では羽藤侍従に万分の一も及びますまい。
欧州＜オルパ＞は小国乱立、武威を競うだけでは飽き足らず、何から何まで競うことが好きなようで。
特に姫様の祖国たる大秦国＜リュマーン＞は剣で従えられぬと見るや銭貨と文化で従える方に転換致しました。
おかげで飽食の今日でも光輝燦然として欧州由来の料理が人々の舌を楽しませておりますわ。

洋の東西を問わず貴人の長く艶やかな髪は多くの殿方を魅了して参りました。
一方でボブカットは20世紀の初め、女性が迷信と陋習から解き放たれた時代の中でも先進的な者達が好んで整えたもの。
心機一転を内外に示す髪型として良きお考えと存じますわ―――それにしても髪型一つで良き相棒とは、具現化する方は老骨に鞭打たねばなりませぬ。
旧いものは私の中に永く遺り、姫様がそれを愛でられましょう、羽藤侍従は前を見据えて未来を歩んで下さいませ。

―――おやおや、近衛中将はお役御免で囃子方でございますか。
心得があるのは縦笛＜ナーイ＞のみ、横笛の役はパノッティへ残しましょう。
セレーノ侍従、内裏雛ではございませんが姫様と並ぶお方は既にお見えになっておられましてよ。
侯爵夫人が姫様の傍らにおわすではありませんか、母娘仲睦まじいようで妬ましい。

「勝てる気がしない」―――それは聞き捨てなりませんね羽藤侍従、私如き一刀の下に斬り捨てられぬようでは「鬼斬り役」など名乗らせられませぬ。
かつて倭国で活動していた鬼殺隊の者どもならば一般隊士ですら私に深手を負わせました、高位の者ならば気配すら感じさせずこの頸を落としましょう。
点茶一族という鬼殺しを宿命として背負った者達も時の当主が私の腕を斬り落とし、仔を産ませ、その仔とともに一族の本懐を遂げております。
所詮橋姫は亜流の鬼、瀬織津姫の郎党あるいは我が夫＜つま＞をはじめとした本格の鬼どもが再び外の世界に野心を抱いたらなんとなさいますか。

かくなる上は姫様のお許しを賜った上で「鬼斬り役」などと名乗る輩へ稽古をつけに参りたく存じます。
無論、家政の方は私か分身が残りますので面倒をおかけすることはございません。
更に私のみならず軍神でもあるアナーヒト、我が夫＜つま＞とその郎党にも手伝わせましょう。
いずれも頑丈なのが取り柄、手足の一本二本斬り落とされるくらい計算の内、そのくらいの気迫でかからねば「鬼斬り役」達の命を保証致しかねますわ。

ご相伴も何も、外様が作った油断ならぬ菓子を従者が毒見なさらずしてなんとなさいますか。
世の中には神霊人妖分け隔てなく殺す毒があれば、特定の種族あるいは個人さえも狙って黄泉路へ誘う毒もございます。
従って姫様の口に入る前に侍従方でお召し上がりくださいませ、幸か不幸か魔族と人間が揃っておりますし。
当然、作った私めも信頼を得るために食べておりますが、致死量に至っていないだけの可能性もございますのでもう一つ頂戴仕りますわ。

ご冗談を、酒呑童子に比べれば私など器の縁を舐めているだけのようなもの。
そして我が夫＜つま＞であれば侍従長の眼も憚らず更に盃を重ねておりましょう、豪胆さが妬ましい限りでございます。
―――八岐大蛇、捧げられた美女を丸呑みにしたとは度し難き悪党、もう千年ばかり早く倭国へ渡っておりましたならば美女達を救えましたでしょうに。
さればかの大蛇の頭を薄濃＜はくだみ＞にして飾り、櫛名田比売とその姉達を愛でつつ、足名椎命と手名椎命の美酒に酔えましたのに口惜しい。

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